ノンテクニカルサマリー

越境EC支援の効果分析

執筆者 牧岡 亮(リサーチアソシエイト)
研究プロジェクト 総合的EBPM研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「総合的EBPM研究」プロジェクト

各国政府や公的機関は、海外に輸出する企業の障壁を軽減し、企業が海外輸出を行いやすくするために輸出支援を行っている。特に新型コロナウイルス感染症出現以降、インターネットを利用して物・サービスの受発注が行われるE-Commerce(EC)を通じた支援が増えてきているものの、支援の効果を分析した研究は限られている。さらに、仮に支援が企業の輸出に影響を与えるとしても、支援の影響経路に関する理解は限られている。より良い支援政策を形成するためには、その理解が不可欠である。

本稿では、日本貿易振興機構(JETRO)による、日本企業の海外ECサイトへの商品販売(越境EC)を支援する事業、JAPAN MALL事業の効果を分析した。本事業においてJETROは、事業データベースに登録している日本企業を海外ECサイトに紹介し、その企業とEC事業者との交渉が成立して商品がECサイトに掲載される際に、同サイト内においてプロモーション活動を支援している。また、ECサイトに掲載する商品の納入方法はEC事業者毎に異なり、大きく分けると、①商品納入が日本国内の商社などの代理店で完結し、日本企業が自ら輸出手続きを行う必要がない形態と、②日本企業自らで輸出手続きを行い、海外に立地する代理店・海外EC事業者に納入する形態が存在する。これら商品納入形態の違いを分析に用いることで、支援により海外バイヤー・EC事業者とマッチする際の障壁を軽減する効果と、税関事務手続きなどの物流・税関コスト削減効果を分解することができる可能性がある。

差の差推定法を用いた分析の結果、輸出額や輸出ステータスに関する支援年以降の正の推定値は観察されるものの、分析の依拠する仮定(平行トレンドの仮定)を満たしていない可能性があり、より精緻な追加分析が必要であることがわかった(図1)。

今後の分析では、支援の因果効果を求めるために、事業のパイロット段階において支援を企業間にランダムに割り当てる状況を作り出したり、海外ECサイトに収集されているページ閲覧回数などの追加の情報を用いることが有用であろう。たとえば先行研究のHui (2020)は、eBayによる税関手続きなどの請負サービス(Global Shipping Program)の因果効果を分析するために、同制度のパイロット段階におけるランダム化比較実験を用いて分析を行っているし、他方でCarballo et al. (2022)は、米州開発銀行らによって開発されたオンラインビジネスプラットフォーム Connect Americasの因果効果を分析するために、プラットフォーム上での売り手企業のページへの、潜在的買い手による閲覧情報を用いている。

図1:輸出額、輸出確率、売上高、従業者数平均値
図1:輸出額、輸出確率、売上高、従業者数平均値
注:JAPAN MALL事業の支援を受けた企業(青線、Treat)と受けていない企業(赤線、Control)の輸出額、輸出ステータス、売上高、従業員数の平均値。それぞれのグループの2013年の値を1としている。2018年(赤縦線)は、JAPAN MALL事業の開始年。
参照文献
  • Carballo, Jeronimo, Marisol Rodriguez Chatruc, Catalina Salas Santa, and Christian Volpe Martincus (2022) “Online Business Platforms and International Trade”, Journal of International Economics, 137: 103599.
  • Hui, Xiang (2020) “Facilitating Inclusive Global Trade: Evidence from a Field Experiment.” Management Science, 66(4): 1737-1755.