ノンテクニカルサマリー

外資企業による日本企業のM&A効果

執筆者 田中 清泰(ジェトロ・アジア経済研究所)
研究プロジェクト 直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究」プロジェクト

外国資本の企業は、先端的な技術や経営ノウハウ、斬新なサービスのイノベーションを日本にもたらすため、対日投資は日本経済の新しい成長エンジンになると期待されている。日本市場に進出する外資企業は平均的な日本企業に比べると生産性が高いため、外資誘致の施策展開に対する実証的な根拠となっている。

一方、日本企業の経営が外国資本の経営に転換した場合に、経営状況がどの程度改善(または悪化)するのか、明確ではない。外資経営の効果を評価するために、外資企業が日本企業を合併買収(Mergers and Acquisitions、以後はM&Aと略す)した後に、被買収企業の経営状況がどのように変化していったのか、検証する必要がある。

図1の検証方法のイメージを使って、外資企業による日本企業のM&A効果を説明したい。縦軸は、売上や利益、雇用などの経営指標である。横軸は、外資企業が日本企業を合併買収した基準時点からの時間を示す。一方、緑色の線は、買収されていない日本企業の経営指標である。赤色の線は、外資に買収された日本企業の経営指標を示す。

図1.外資企業による日本企業のM&A効果の検証イメージ
図1.外資企業による日本企業のM&A効果の検証イメージ

外資M&A効果は、買収された日本企業の経営指標を、買収されていない日本企業の経営指標と比較して計測する。具体的に、被買収企業における外資M&A以降に起こった変化を、外資M&A効果と考える。一方、単純に二つのグループを比較すると、M&A以外の要因で経営指標の大きな違いが生まれる。そのため、計量経済学の手法を活用して、買収されていない日本企業の属性を、買収された日本企業の外資M&A以前の属性に近似している。図1では、緑色の点線を作るイメージである。

本稿は、経済産業省『外資系企業動向調査』と『経済産業省企業活動基本調査』の個票データから企業レベルのパネルデータを構築して、外資企業によるM&A効果を推定した。推定の結果、被買収企業の売上は、外資M&Aから5年後までの各年次において減少傾向がある。被買収企業の粗利益を見ると、外資M&Aから3年後までは有意な影響が見られない一方で、4年後から5年後は減少傾向がある。また、被買収企業の従業者数は、外資M&Aから5年後までの各年次において減少傾向がある。

検証に活用したデータは、事業単位のM&Aが含まれず、サンプルから除外されたM&A案件も多いため、結果の解釈には注意が必要である。しかしながら、本稿の結果は、外資M&Aによって被買収企業の経営状況は必ずしも改善しない、と解釈できる。外資企業の母国籍や被買収企業の産業によっても外資M&Aの効果は異なることが分かっており、外資M&Aが経営状況の改善につながる条件を検証することが重要である。