ノンテクニカルサマリー

在宅勤務の生産性ダイナミクス:アップデート

執筆者 森川 正之(所長・CRO)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.趣旨

新型コロナの発生・拡大に伴って在宅勤務者が急増した。経済活動への制限緩和の結果、職場勤務に戻す企業が増える一方、在宅勤務制度を恒久化する企業も見られるなど、この働き方への対応は企業によって異なっている。リモートワーク関連技術の普及や学習効果は一時的なものでなく持続性があるので、新型コロナ前の状態に戻ることは考えにくい。

しかし、今後の在宅勤務がどうなっていくかは、その生産性に大きく依存する。在宅勤務の平均的な生産性の変化は、①在宅勤務を続ける労働者の学習効果などを通じた生産性上昇という「内部効果」、②在宅勤務の生産性の低い労働者の職場勤務への回帰などによる「セレクション効果」に分解できる。仮に学習効果などを通じて在宅勤務の生産性が大きく上昇し、職場勤務に遜色がなくなる、あるいはそれ以上に高い水準になるならば、新型コロナ終息後もこの働き方が広く利用される可能性が高い。一方、セレクション効果が支配的だとすると、在宅勤務の利用度と生産性の間にトレードオフ関係が生じるので、在宅勤務者は自宅での生産性が高い限られた職種の労働者に絞られていく可能性がある。

本稿は、新型コロナ下での在宅勤務について雇用者へのサーベイに基づいて分析したMorikawa (2022, 2023)を、2022年末までの情報を用いてアップデートし、在宅勤務のダイナミクスを明らかにするとともに、今後の在宅勤務について考察する。

2.結果の要点

分析結果の要点は以下の通りである。①在宅勤務実施者の割合は職場勤務への回帰を主因として減少傾向にあるが、2022年末時点でも新型コロナ以前と比べるとずっと高い水準である。②在宅勤務者の在宅勤務実施頻度は平均で週3日弱という状況が続いており、全ての仕事を自宅で行う完全在宅勤務者は1/3程度であり、ハイブリッド型在宅勤務が主流である。③在宅勤務の主観的生産性は改善が続いているが、平均的には職場に比べて20%程度低い水準である(図1参照)。④在宅勤務を継続している雇用者に限って見た場合、在宅勤務の生産性は平均的には80%台半ば程度で頭打ちとなっており、在宅勤務の平均的な生産性の上昇は、在宅勤務の生産性が低かった雇用者の職場勤務への回帰というセレクション効果から生じるようになっている(表1参照)。⑤在宅勤務者が新型コロナ終息後も高頻度でこの働き方を続ける意向は強まっている。

3.含意

以上の結果は、在宅勤務の動向に対して生産性に基づく自然なセレクション・メカニズムが働いていること、在宅勤務者にとってこの働き方のアメニティ価値が高まっていることを示している。新型コロナ下の3年間の動向から将来を予想すると、在宅勤務者の割合は今後も緩やかに減少するものの自宅での仕事の生産性が高い人、アメニティ価値への選好が強い人はこの働き方を継続し、結果として新型コロナ前よりも高い水準での在宅勤務が続くと見込まれる。同時に、生産性と賃金の均衡、補償賃金のメカニズムを通じて、中長期的に在宅勤務者の相対賃金低下(=職場勤務者の相対賃金上昇)が生じるかもしれない。

図1.在宅勤務の生産性の平均値の推移
図1.在宅勤務の生産性の平均値の推移
(注)「パネル雇用者」は、3回の調査全てに回答した雇用者のサブサンプル。
表1.在宅勤務の生産性ダイナミクス
表1.在宅勤務の生産性ダイナミクス
(注)在宅勤務の生産性は、職場での生産性を100とした主観的な生産性。「内部効果」は在宅勤務継続者の平均生産性の変化、セレクション効果は在宅勤務の生産性が低い雇用者の職場勤務への回帰などの寄与。パネル雇用者は3回の調査全てに回答した雇用者のサブサンプル。
参照文献
  • Morikawa, Masayuki (2022), “Work-from-Home Productivity during the COVID-19 Pandemic: Evidence from Japan,” Economic Inquiry, Vol. 60, No. 2, pp. 508-527.
  • Morikawa, Masayuki (2023), “Productivity Dynamics of Remote Work during the COVID-19 Pandemic,” Industrial Relations, forthcoming.