ノンテクニカルサマリー

MaaSの導入活動が株式リターンに与える影響

執筆者 野方 大輔(佐賀大学)
研究プロジェクト アフターコロナの地域経済政策
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「アフターコロナの地域経済政策」プロジェクト

日本ではMaaS(Mobility-as-a-Service)の注目度が高まっており、2030年には当該市場規模が6兆円にまで拡大するとの予測もある。この新たな交通サービスは、旅行者や地域住民の移動の利便性を向上させるため、観光需要増や地域経済活性化に寄与すると期待されている。MaaSの本格導入前にその効果把握すべく、2018年から各地で実証実験の評価がおこなわれているが、事業毎のケーススタディが主となっている。また、実証実験開始から現時点では時間があまり経っていないために、関係企業のデータはあまり蓄積されていない。

そこで本論文は、企業の株価の変動に注目する。株価を日別で観察すれば、短期間でも多くのデータが得られ、さまざまな企業をまとめて分析できる。具体的には、MaaSの導入活動の発表を受けて、関連企業にどのような株価反応が得られるのかを網羅的に観察する。これらのサンプルの全体平均、産業平均から、MaaSによって日本企業全体、各産業にもたらされた株価効果を確認する。

分析の結果、MaaSの導入活動は、日本企業の株価に対して平均的にはポジティブな効果をもたらしていた。MaaSは、平均的には日本企業の収益性にプラスとなる可能性があるのかもしれない。

他方でその効果を産業別に分解してみると、株価反応は業界差が大きい。たとえば、空運業や陸運業などの交通輸送産業には大きな株価反応はみられなかった。MaaSは現状交通輸送の採算のとれにくい地方路線で実施される傾向にあること、MaaSの事業規模が交通輸送事業者の規模に比べると小さいこと等、複数の要因が影響していると考えられる。一方、公共交通に関する中間サービスを提供する産業(たとえば、交通機関利用データの管理サービス供給者、技術導入に関わるシステムベンダー等)にはポジティブな株価反応が得られていた。彼らの事業は主に企業をターゲットとしており、交通輸送産業に比べれば、交通機関利用者数の変動を直接的に受けない。このため、事業性が確保されやすい。これとは対照的に、輸送機器メーカーにはネガティブな株価反応が得られている。MaaSの普及は自家用車を代替するため、株式市場はそれを業界のキャッシュフローを減少させると、嫌気した可能性がある。

本格的なMaaSの導入につなげるには、その事業性が最大の問題となる。今後も複数の角度からMaaSの効果検証を積み重ねて、各業界にとってのメリットデメリット(事業性の有無)を整理することで、本格的なMaaS導入にまた一歩、近づくと考えられる。

MaaSの導入活動による株価反応