ノンテクニカルサマリー

アジアにおける沖縄県観光需要の要因分析

執筆者 岩橋 培樹(琉球大学)
研究プロジェクト アフターコロナの地域経済政策
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「アフターコロナの地域経済政策」プロジェクト

本論文では、コロナ禍以前の10年間(2010-2019)にアジア6地域(台北、ソウル、上海、香港、バンコク、シンガポール)から沖縄県を訪れた渡航者数のデータをもとに、沖縄県観光需要の要因分析を行った。そこでは、①マクロ経済的要因(円安進行、アジア地域の経済発展)と②沖縄固有要因(沖縄のもつ魅力や観光政策など)とに分けて、その効果を推定、評価した上で、政策的な提言を行う目的としている。

第一に、「沖縄県への外国人渡航者数」を被説明変数、「地域内総生産」、「為替レート」、「気温差」等を説明変数とする回帰分析を行った(2010-2019、月次データ)。推定結果から、為替の影響は相応に大きく、円安効果によって沖縄訪問人数が30%程度増加していることが分かった。それにも増して、アジア地域の経済発展の効果は大きく、もし経済成長がなければ、渡航者数は微増にとどまっていたことが確認された。また、これら2つの要因ほどのインパクトはないものの、気温差にも有意な説明力があり、気温差1度につき渡航者数に約3.9%程度の影響があることが示された。

第二に、沖縄県を「まだ訪れたことのない人の渡航確率(p)」と「一度でも訪れた人の渡航確率(q)」が異なるという想定のもとで渡航者数が決定される理論モデルを構築し、(p、q)の時系列的変化を推定した。実際に訪れることによって魅了され、再び訪れたいと思うこともあれば(q>p)、一度の訪問でもう十分と思うこともあるだろう(p>q)。アジア4地域(台北、ソウル、上海、香港)について(p、q)の推移に着目することによって、これら地域からの観光需要に対する沖縄固有要因の効果を間接的に評価することが目的である。

 

下図は、推定結果をアジア4地域ごとにグラフにしたものである。総じてqがpを上回っており、沖縄観光需要に対する沖縄固有要因の効果を一定程度確認できる。地域別にグラフの特徴をみると、台北はpq差が最も小さく、ソウルは始めqが上回っているものの、その差が縮小している。こうした地域では、qが頭打ちとなっている原因を検討し、沖縄固有の魅力を際立たせ、再渡航確率を高めるような政策に力点をおくのが望ましいように思われる。逆にpq差が拡大しているのが上海と香港で、これら地域からの渡航者はより沖縄に魅了されている傾向があり、それが再渡航確率を高めているものと推察される。こうした地域では、まずは沖縄に来てもらう、そのために知名度を高め渡航コストを下げるような政策が有効であると思われる。

 

本論文の実証成果はコロナ禍以前の沖縄観光統計に依拠したものであるが、観光需要についての普遍的な分析枠組みを提供することで、コロナ禍以降の観光需要予測や観光政策提言にも有効なものであると考えている。

図 アジア4地域の渡航確率(p、q)推移
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図 アジア4地域の渡航確率(p、q)推移