ノンテクニカルサマリー

グリーン・トランスフォーメーション・イノベーション

執筆者 木村 遥介(東京工業大学)
研究プロジェクト 経済主体の異質性と日本経済の持続可能性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「経済主体の異質性と日本経済の持続可能性」プロジェクト

環境問題は過去数十年にわたり企業活動にとっての懸念事項となっている。企業は、気候変動のリスクが増大するにつれて、グリーン・トランスフォーメーション(GX)技術の研究開発を発展させてきた。本論文は、特許庁が発表したグリーン・トランスフォーメーション技術区分法(GXTI)を使用して、特許をグリーン特許と非グリーン特許の分類を行い、二つの特許の間に価値の違いがあるかを分析した。

特許の価値の推定方法として、Kogan et al. (2017)の方法を用いている。Kogan et al. (2017)は、ある企業の特許が登録された日に、特許登録によって生み出される価値がその企業の株価に反映されるという考えのもとで、特許登録日の株価の変化率を用いて特許の価値を計算する手法を提示した。本論文は、この手法を日本の特許の情報公開に適用し、株式市場の反応に基づく特許の価値を計算した。

GXTIはJ-PlatPat上でのGXに関する技術を検索するためのクエリを提供しているため、この検索によって表示された特許がGXに関する特許として捉えることができる。本論文は、GXTIに含まれる特許をグリーン特許、それ以外の特許を非グリーン特許として分類した。さらに、この分類に基づいて、特許の価値が平均的に異なっているのかについて分析を行った。

本論文の分析によると、グリーン特許の価値が非グリーン特許の価値よりも平均的に高い、という結果が得られた。これは、グリーン特許が気候変動リスクに対する耐性を持っていることから、株式市場において高く評価されていることを示唆している。しかしながら、本研究の特許価値の計算方法やGX技術に比較対象となる非GX技術の選択方法には限界があるため、単純にグリーン特許の方が高い価値を持つと結論づけることはできないことには注意が必要である。

図1では、グリーン特許と非グリーン特許の価値を年度ごとに集計したものを表している。非グリーン特許の数が多いため、集計された価値はグリーン特許の価値と比べて非常に大きい。しかしながら、非グリーン特許は2004年から2021年の間に32兆円から66兆円へと約2倍になったのに対し、グリーン特許は1.7兆円から6.3兆円と約3.5倍に増大しており、短期間においてグリーン技術の技術開発や評価が急速に増大していることが観察される。

図1 特許価値のタイプごとの集計量
出所:筆者作成。
特許価値のタイプ(グリーン特許・非グリーン特許)ごとの集計量の2004年から2021年までの推移を表している。特許価値はKogan et al. (2017)の方法に基づいて計算された。

また、1年間に登録された特許の価値を企業ごと、タイプ(グリーンまたは非グリーン)ごとに集計することで企業レベルのイノベーション指標を定義した。このイノベーション指標は、1年間に当該企業が生み出したイノベーションの価値を集計したものであり、この指標が大きい企業ほど、イノベーションを生み出していると解釈できる。本論文では、Kogan et al. (2017)と同様に、企業の1年後から5年後までの利益、売上高、有形固定資産、従業員数の成長を予測できるかを確認している。結果として、非グリーンのイノベーション指標が大きい企業は、将来5年間にわたって、売上高、資本、労働力が増加することが予測されるが、グリーンのイノベーション指標は企業の成長や資源配分の将来の変動を予測する力は持っていないことがわかった。これは環境問題の解決は長期的課題であり、短期的に企業の成長をもたらす性質を持っていないことを示唆している。

最後に、本論文の結果は次のように解釈できるだろう。投資家が環境に優しい技術に高い価値を置いているという観察は、企業が市場でGX技術の資金調達を求める際に、資本コストを削減するのに寄与する可能性がある。さらに、これらの技術がしばしば短期的な企業成長をもたらさないことから、投資家はGX技術の研究開発に投資する企業に対して寛容さを示していると推測することができる。環境問題が長期的な課題であることを考えると、投資家が企業に環境問題の解決策を開発するための時間を提供することは、環境政策の有効性を支援する役割を果たすかもしれない。

参考文献
  • Kogan, L., Papanikolaou, D., Seru, A., and Stoffman, N. (2017) Technological innovation, resource allocation, and growth, The Quarterly Journal of Economics 132 (2), 665–712.