ノンテクニカルサマリー

自動化と、定型的作業を主とする職業の雇用シェア低下

執筆者 菊池 信之介(MIT)/藤原 一平(ファカルティフェロー)/代田 豊一郎(青山学院大学)
研究プロジェクト マクロ経済と自動化
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「マクロ経済と自動化」プロジェクト

わが国は、かつての技術大国として、あるいは折々に生じた人手不足からの要請もあり、自動化先進国であり続けてきた。例えば、2022年時点においても、International Federation of robotics (IFR)によれば、世界の46%のロボットを出荷している。一方で、Acemogluらが米国において指摘するような、自動化に起因すると推察される急速な労働分配率の顕著な低下傾向や賃金格差の拡大は観察されてこなかった。

労働分配率低下や賃金格差拡大といった、自動化がもたらすと予想される負の影響が表面化しなかったことに起因するかは定かではないが、わが国は、自動化先進国でありながらも、自動化が労働市場に与える影響については、研究の蓄積が比較的乏しい状況にある。今後、地政学リスク増大による国内生産回帰や、加速する少子高齢化による労働力不足を鑑みれば、ますますの自動化・省力化技術の導入は必然である。ゆえに、わが国において、かつて自動化が労働市場にもたらした影響について詳細に考察することは、重要な意味を持っているといえる。

本研究では、1980年以降の日本における自動化技術の労働市場における影響について、自動化が代替しうるタスクを念頭に、多面的な検証を行った。図1は、わが国全体における、25歳から64歳の非農業部門就業者を対象に、抽象的な思考を主とする職業(Abstract)、定型的作業を主とする職業(Routine)、手作業・身体労働を主とする職業(Manual)のそれぞれが全体に占める雇用シェアを示したものである。明らかに、定型的作業を主とする職業(主に製造業における生産ラインに従事する労働者)の割合が低下している。

この定型的作業を主とする職業のシェア低下が自動化に起因するものかを考察するために、各産業の自動化技術進展がもたらす影響が、通勤圏ごとに、期初の産業構造に応じて異なることを用いて、通勤圏単位での実証分析を行った。結果は以下の通りである。

図1:職種ごとの雇用シェア(出所:就業構造基本調査)
図1:職種ごとの雇用シェア(出所:就業構造基本調査)

第一に、自動化は、通勤圏全体の就業率に有意な影響をもたらさないことを発見した。より細かい労働者の属性、例えば、若い世代の労働者、男性、大卒未満の労働者、に限定しても同様であり、また正規から非正規雇用への転換を促進する効果も観察されなかった。これらの結果から、わが国においては、自動化は雇用を奪うようなものではなかったことが示唆される。

第二に、自動化は、製造業を中心とした定型的作業を主とする職業の就業割合を減少させ、通勤圏単位での労働需要をサービス業の非定型的タスクを主とする職種へとシフトさせることを示した。同時に、製造業とサービス業における、事業所数や売上出荷額の変化を調べると、自動化は製造業の規模をむしろ相対的に拡大させていることがわかった。

第三に、自動化がもたらす労働需要の変化は、大卒未満、あるいは若い世代の労働者に対して、とりわけ観察されることを示した。

ますます労働力不足が深刻化する中においても、日本ロボット工業会のデータによると、わが国の国内向けロボット出荷台数は、通常の資本と同様1990年代半ばをピークに低迷しており、低成長の要因とも指摘されることが多い。今後、より大胆な自動化・省力化を進めたとしても、上記の結果によれば、米国で叫ばれるような自動化による雇用喪失が観察されるとは予想しづらい。そのため、より大胆な自動化・省力化を進めたとしても、雇用喪失という意味での副作用は小さいものにとどまる可能性がある。加えて、自動化・省力化を促進するなかにおいて生じうる職種転換に対して、適切なサポート(例えばリスキリングに対する支援)を政策的に検討することも有用になり得る。