ノンテクニカルサマリー

マクロ経済学のミクロ的基礎づけ再考

執筆者 吉川 洋(ファカルティフェロー)/荒田 禎之(研究員)
研究プロジェクト 経済主体の異質性と日本経済の持続可能性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「経済主体の異質性と日本経済の持続可能性」プロジェクト

今日、経済学界で標準とされているマクロ経済学は、家計/企業などミクロの経済主体の最適化を、モデルのなかで明示的に分析する「ミクロ的基礎づけ」を持つ理論である。この論文では、そうした「ミクロ的基礎づけ」はマクロ経済学に正しいミクロ的基礎づけを与えるものではない、ということを説明する。

経済には、ミクロ/マクロ2つの異なる問題が存在する。ミクロな問題を分析するミクロ経済学では、問題に応じてミクロの経済主体の動機、戦略的行動を詳細に考察する必要がある。しかし、景気循環はじめマクロ経済の動きを分析するときには、ミクロの経済主体の最適化を詳細に考察しても意味はない。そうしたスピリットに基づく「確率的アプローチ」は、個人の所得分配や企業成長について重要な知見をもたらした。所得分配の分析は今日大きな問題となっている「格差」を論じる場合の礎となるものである。また、企業の高成長は、小さな成長の積み重ね(図a)ではなく短期間における飛躍の結果(図b)であるというような知見は、中小企業政策を考えるために貴重な情報を与えるものである。こうした知見を得るためには、「ミクロ的基礎づけ」は役に立たない。

この論文ではこのような観点からケインズの有効需要の原理の意義についても説明する。財政・金融政策の効果も、マクロ経済をケインズ経済学的にみるか、新古典派的均衡にあるとみるかによって全く異なるので、「有効需要の原理」の意義は、経済政策を考える上でも重要である。

【図】高成長企業の2つの成長パターン:x-軸は時間、y-軸は規模。図はArata et al. (2023) から引用
【図】高成長企業の2つの成長パターン:x-軸は時間、y-軸は規模。図はArata et al. (2023) から引用