ノンテクニカルサマリー

日韓二国間バリューチェーンが製造業企業の付加価値創造に与える影響

執筆者 許 晶(西江大学)/権 赫旭(ファカルティフェロー)/宋 ハングル(IBK投資証券)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

東アジア産業生産性プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「産業・企業生産性向上」プロジェクト

日本から輸入された先端技術が体化された素材、機械、部品は韓国経済の工業化に大きく貢献したことは言うまでもない。日韓両国は自然と主要な貿易パートナーになって、2020年現在の韓国は日本の第3位の輸出先、第4位の輸入先で、日本は韓国の第5位の輸出先、第3位の輸入先になって、共に繁栄してきた。しかし、近年日韓間の歴史的、政治的、外交的な摩擦が増加するにつれて、日韓間の貿易紛争が激しくなっている。2019年に日本政府は、韓国の半導体やディスプレイ産業に不可欠な一部の素材の輸出を規制した。このような政治的な問題で発生する貿易摩擦の影響の程度についてより詳細な分析が必要である。

そこで本稿では、二国間バリューチェーンの観点から二国間の産業関係に注目し、二国間の産業接続が、企業の生産から付加価値を生み出す能力とどのように関連しているかについて実証分析する。本稿の研究結果が、両国間の合理的な経済協力計画を導き出すために活用されることを期待する。

グローバル・バリューチェーンの効果は中間財貿易が企業の生産性に与える影響について分析されてきた。Criscuolo et al. (2015)は、外国からの中間財輸入が以下の三つの経路を通じて企業の生産性を上昇させることを明らかにした。

(1)国を超えて生産を垂直的に特化することによる効率性の向上
(2)中間財貿易による高品質な投入財の確保
(3)貿易を通じた新しい知識の国際スピルオーバー

多くの先行研究はグローバル・バリューチェーンに参加することによる効果を分析しているが、本稿は二国間のバリューチェーンによる相互利益を検証したものである。

表1. 推計結果の要約
表1. 推計結果の要約
注: (1) 化学製品製造業, (2) 金属製品製造業, (3) 電気機器製造業, (4) 一般機械製造業, (5) 自動車製造業, (6) その他の輸送用機械製造業
(+) 及び (-) 統計学的に有意. (+, -) 入り混じった結果. (0) 統計学的有意差なし.

表1の全製造業の結果から、韓国企業における、生産した製品を日本市場や日本の生産拠点に供給するフォワードBVC (Bilateral Value Chain)指数は付加価値と負の関係を示し、日本のサプライヤーから部品を調達するバックワードBVC指数は付加価値と正の関係を持っている一方、日本企業の場合、バックワードBVC指数は付加価値と負の関係を、フォワードBVC指数は付加価値と正の関係にあることがわかる。これは両国の企業がより多くの付加価値を生み出すためには、日本企業は韓国に輸出し、韓国企業は日本から輸入する貿易関係を強化することが必要であることを示唆する。産業別に分けて推計した結果は、化学製品製造業と自動車製造業は全製造業と他の主要な産業の結果と異なる。

本稿は韓国が日本から中間財、資本財を輸入することは相互利益になることを明らかにした。したがって、日韓における貿易摩擦は両国の経済成長を牽引するグローバル大企業に大きなダメージを与える可能性が高い。

参考文献
  • Criscuolo, Chiara, Jonathan Timmis and Nicholas Johnstone. (2015), “The Relationship between GVCs and Productivity”, OECD Background Paper.