ノンテクニカルサマリー

就職氷河期世代と瑕疵効果の再検討

執筆者 近藤 絢子(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 子育て世代や子供をめぐる諸制度や外的環境要因の影響評価
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「子育て世代や子供をめぐる諸制度や外的環境要因の影響評価」プロジェクト

1993年から2004年の長期不況期に労働市場に参入した世代を「就職氷河期世代」と呼ぶ。この就職氷河期世代とバブル景気の中で労働市場に参入した少し上の世代の間には、雇用や収入に大きな格差が生じていることが広く知られてきた。2010年代後半、就職氷河期世代が中高年と呼ばれる年齢に差し掛かっても、依然としてその上の世代よりも不安定な雇用形態にある割合が高いことや、賃金が伸び悩んでいることが改めて注目され、政府により就職氷河期世代支援プログラムが打ち出されたことは記憶に新しい。

しかしながら、就職氷河期世代とそのすぐ下の世代の比較はこれまであまりなされてこなかった。男性について、卒業以後の就業率、正規雇用比率、年収などの推移を見てみると、実は就職氷河期世代とそれより若い世代の間であまり差がないことが分かる(図)。求人倍率や就職率など、新卒時点での雇用状況を表す指標は、就職氷河期の後半に比べれば確実に改善していたはずの2005-09年卒も、卒業後10年ほどの動向を見るとさして改善は見られないのである。

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コホート別・学卒後の就業や年収の推移(男性のみ)

これまで、就職氷河期世代とその上の世代の間の格差は学卒時の不況の瑕疵効果と解釈されてきた。瑕疵効果とは、過去に経験した労働市場のショックが長く持続的な影響をもつことで、日本だけでなく多くの国で学卒時の不況は長期的に悪影響を及ぼすことが知られてきた。

しかし、日本における瑕疵効果の既存研究は1990年代以前に卒業した世代のデータを用いており、就職氷河期世代やさらに若い世代について、学卒時の労働市場の需給状況が長期的な瑕疵効果をもつかは検証されてこなかった。そこで、本稿では、1984-2013年に学校を卒業した世代のデータを用いて、学卒時の失業率が雇用と所得に及ぼす長期的な影響を再検討した。

この結果、就職氷河期以前の世代では統計的に有意に瑕疵効果が観測されたのに対して、同じ推計モデルで就職氷河期世代以降のみを含むデータを用いると、学卒時の失業率の効果がもはや統計的に有意でなく、瑕疵効果が弱まってきていること示唆された。その背景には、いわゆる「失われた10年(あるいは20年)」の間に、日本的雇用慣行が弱って労働市場の流動性が高まったこと影響している可能性が示唆される。