ノンテクニカルサマリー

社外取締役の心理的特性:取締役会のモニタリングと助言付与への影響

執筆者 山野井 順一(早稲田大学)/井口 衡(京都産業大学)/宮島 英昭(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト

本研究は、社外取締役の心理的特性が取締役会のモニタリングと助言付与への注力に与える影響について統計的分析を行うものである。分析対象となるデータは、2019年11月に日本の東証一部上場企業の社外取締役に対する質問票調査によって得た。回答者数は155社の185名である。社外取締役は、その役割として、取締役会においてモニタリングや助言の付与を行うことが期待されている。しかしながら、それらの役割を果たすにあたり心理的なストレスや労力が発生し、さらには自身の社外取締役としてのパフォーマンスについての評価が明示的にはされず、任期も全うできるケースが非常に多いため、必ずしも期待される役割を果たさないことがありうる。そのため、社外取締役に関するどのような属性がその役割についての能力の発揮やコミットメントを促すのかについては、学術的のみならず、実務的にも関心が極めて高い。それらの属性のうち、社外取締役としての能力やモチベーションに関連のあるものとして心理的特性が考えられる。心理的特性とは、パーソナリティーや感情知能などの比較的安定的な心理的特徴と、感情などの一時的な心理的状態を含む。本研究では、社外取締役の組織への一体感、他の社外取締役への信頼、ビッグファイブ・パーソナリティー(外向性、調和性、誠実性、感情安定性、開放性)、感情知能を扱った。

表は線形回帰モデルによる推計結果を示している。Model 1と2は従属変数が取締役会のモニタリングであり、Model 3と4は取締役会への助言の付与である。Model 1と3はコントロール変数のみが含まれ(推計結果は省略)、Model 2と4に社外取締役の心理的特性の変数を追加した。本研究の主要な発見は以下のとおりである。第一に、社外取締役が抱く所属組織への一体感は、取締役会のモニタリングへの取り組みを統計的に有意に高めていた。第二に、社外取締役による他の社外取締役への信頼は、取締役会への助言の付与への取り組みを有意に高めていた。第三に、パーソナリティーのビッグファイブのうち、経験への開放性について、同特性が高い社外取締役は、取締役会のモニタリングと取締役会への助言の付与に、より取り組んでいた。第四に、感情知能が高い社外取締役は、取締役会への助言の付与により取り組んでいた。最後に、これらの社外取締役の心理的特性は、社外取締役の行動に対しての説明力を有意に向上させていた。

現在、多くの上場企業において、社外取締役の指名に当たっては、その経歴や性別、国籍、年齢など、デモグラフィック特性に焦点が特に当てられているようである。しかしながら、本研究成果が示すように、それらのデモグラフィック特性による説明力を超える形で、社外取締役の心理的特性が取締役会のモニタリングや助言付与への注力に有意な影響を与えていることが見出された。企業経営により貢献する社外取締役を指名するためにも、その候補者を探す際は、書面上でわかるデモグラフィック特性に過度に縛られることなく、候補者の内面である心理的特性にも焦点を当てて選抜を行うことが肝要であろう。

同様に、社外取締役が有効に機能できるように、社外取締役間の信頼や組織への一体化を高めるような施策を、企業は積極的に採用すべきである。社外取締役を有効に機能させるために、内部情報の共有のような施策を採用している企業は多いようではあるが、社外取締役の心理的側面に着目した施策を実行している企業は決して多くはない。社外取締役に対して、企業に愛着を持ってもらったり、社外取締役間の仲間意識を高めて信頼感を促進するような施策は、彼らの社外取締役としての役割へのコミットメントを高めることにつながることが推察される。効果的な社外取締役によるガバナンス機能の実現のためにも、そのような施策を実施することは極めて有益であろう。

表:社外取締役の取締役会のモニタリングと助言の付与に対する心理的特性の影響についての推計結果
表:社外取締役の取締役会のモニタリングと助言の付与に対する心理的特性の影響についての推計結果