ノンテクニカルサマリー

日本における家計消費の動向:1981年から2020年の家計調査を用いた分析

執筆者 北尾 早霧(上席研究員(特任))/山田 知明(明治大学)
研究プロジェクト 人口減少下のマクロ経済・社会保障政策:企業・個人・格差のダイナミクス
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人口減少下のマクロ経済・社会保障政策:企業・個人・格差のダイナミクス」プロジェクト

本論文の目的は、1981年から2020年にかけての家計調査(Family Income and Expenditure Survey)の個票データを用いて、二人以上世帯の消費支出(以下、消費と呼ぶ)の変化や格差の動向、そしてライフサイクルを通じた消費のパターンを分析することにある(注1)。

図1は消費格差の度合いを示すいくつかの指標を時系列に示したものである。(a)のジニ係数は0から1の値を取り、数値が大きいほど格差の度合いが高いことを示し、(b)は消費額(対数)の分散で、同じく数値が大きいほど家計間の消費のばらつきが高いことを意味している。(c)と(d)はそれぞれ消費支出の中央値と上位10%あるいは下位10%の値との比率を示しており、この値が高いほど中位層と高位層(または低位層)との格差が大きいことを示している。これらの指標の推移を観察すると、1980年代以降、2000年頃までジニ係数などで測った消費格差は拡大傾向にあったが、現在は高止まりしていることがわかる。

財・サービス区分ごとに格差動向を分析すると、図2で示すように、食料・光熱費などの非耐久財や、家具・自動車購入などの耐久財の消費においては格差に大きな変化はないことが分かる。一方、サービス消費においては格差が拡大しており、これをさらに詳しくみると、トップ層と中位層の格差は安定しているが、中位層と下位層との格差が拡大していることが確認された。

図1 世帯消費の格差動向
図1 世帯消費の格差動向
図2 財・サービス区分ごとの格差動向
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図2 財・サービス区分ごとの格差動向

また、Aguiar and Hurst(2013)の手法に従って消費のライフサイクルプロファイルを推定した。世帯主の性別、婚姻状態、子供の数や年齢、および生年の違いによるコホート効果などの影響を取り除き、年齢効果のみを抽出したところ、図3に示すように先行研究でもよく見られる山型(Hump-shaped)のプロファイルが得られた。消費は40代半ばまで上昇し、その後単調に低下していくことが分かった。

同じ分析手法を用いて財・サービス区分や消費アイテム別に推定を行ったところ、ライフサイクルプロファイルの形状に大きな差異があることが分かった。図4に示されるように、非耐久財消費は40代半ばまで上昇し、その後安定しているが、耐久財消費は50代まで緩やかに上昇した後、急激に低下している。サービス消費は50歳前後まではフラットであるが、その後急速に減少している。

図3 消費のライフサイクルプロファイル
図3 消費のライフサイクルプロファイル
図4 財・サービス区分ごとのライフサイクルプロファイル
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図4 財・サービス区分ごとのライフサイクルプロファイル

さらに、消費項目ごとの推定を行うと、食料・家具・交通・通信などは総消費と同様に山型の形状をしているが、医療費・光熱費などはライフサイクルを通じて上昇し、被服や履物・家賃は年齢とともに低下している。また、年齢や家族構成などの特徴では説明できない消費のばらつきは、40代以降60歳前後まで急速に拡大することが確認された。

消費格差のトレンドやライフサイクル消費と一言にいっても、ミクロデータを精査すると、財・サービス区分や項目ごとに大きな異質性のあることが分かる。少子高齢化とともに人口構造が大きく変化する中で、総消費や様々な財・サービスに対する需要構造が大きく変化しうることを示している。このように、ミクロデータを精査することで、今後労働需要が高まり成長分野として政策的な重要性が増す分野はどういったセクターかといったインプリケーションを得ることができるだろう。また、マクロ経済における長期的な総需要の動向の予測や、限界消費性向の違いに基づく財政政策の有効性の再検証といった新たな研究課題に繋げていくことが期待できる。

脚注
  1. ^ なお、車や家具といった耐久財などは、必ずしも支出額が計上されたタイミングで消費されているわけではないが、本研究においては各時点における消費支出を分析対象としている。