ノンテクニカルサマリー

トップマネジメントチーム改革とコーポレートガバナンス

執筆者 久保 克行(早稲田大学)/内ヶ﨑 茂(HRガバナンス・リーダーズ株式会社)/村澤 竜一(HRガバナンス・リーダーズ株式会社)/鈴木 啓介(HRガバナンス・リーダーズ株式会社)/山内 浩嗣(三菱UFJトラスト投資工学研究所)/瀬古 進(三菱UFJトラスト投資工学研究所)
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト

この研究の目的は、日本のトップマネジメントチームの実態を明らかにすること、また、コーポレートガバナンスがトップマネジメントチーム改革に与える影響を分析することである。これまでの先行研究によると、CEOやトップマネジメントチームのあり方は企業の業績や行動と密接な関係がある。これらのことから強靭なトップマネジメントチームを構成することは、企業が高い業績を達成するために不可欠であると考えられる。しかしながら、日本企業においてトップマネジメントチームがどのように構成されているのか、という点について、まとまった研究は非常に少ない。また、コーポレートガバナンスがトップマネジメントチームの構成、特にいわゆるCxO制度の導入に与える影響についてもほとんど研究がなされてきていない。CEOをはじめとするトップマネジメントチームのメンバーを選任するのは取締役会の重要な役割であることを考えると、このことは驚くべきことである。

本稿ではビューロー・ヴァン・ダイク社が提供するOsirisデータベース、東洋経済新報社の「役員四季報」、各社のwebサイト等から東京証券取引所に上場している約2,100社のトップマネジメントチームのデータを収集し分析した。また、比較のために同じ時期の英国の企業と比較している。まず明らかになったのは、日本でCxO制度が普及していないということである。約2,000社の中でCEO等のCxOが一つでも存在している企業は25%であった。いいかえると75%の企業ではCxO制度が導入されていないことが示されている。大きな環境変化に直面する中で、迅速かつ適切に意思決定するためには、役割と責任が明確なトップマネジメントでチーム構成されていることが必要である。さらに、日本企業のトップマネジメントメンバーは英国と比較して高齢であり、女性が少なく、外国人が少ないことが示された。今後、ダイバーシティが進展することが望ましいと考えられる。

では、どのような企業がCxO制度を導入しているのだろうか。このことを示したのが図表である。この図表は、CEOもしくはCxOを導入している企業が、導入していない企業と比較してどのような特徴を持っているかを示している。この図表からCxO制度を導入している企業としていない企業に多くの違いがあることがわかる。まず、導入している企業は売上高が大きく、R&D売上高比率(R&D intensity)が高く、海外売上高比率(pct foreign)が高い。ただし、多角化度を示すハーフィンダール指数(HHI)は有意ではない。また、CxO制度を導入している企業は創業者によって経営されている傾向(founderCEO)にあり、取締役に女性や外国人が多いことが示されている。

本論文では、日本の大企業においてCxO制度の導入が進展していないこと、トップマネジメントチームのダイバーシティが進展していないこと、これらの改革とコーポレートガバナンスのあり方が密接に関連していることが示されている。このことは政策的にも大きな意味を持っている。今後、コーポレートガバナンス・コードやコーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)が改訂される際には、トップマネジメントチームの設計が取締役会の重要な責務であること、トップマネジメントチームにおいてもダイバーシティが重要であること、また、取締役会とトップマネジメントチームの役割分担を明確にすることが望ましいということを明記することが望ましい。

図表 CxO 制度導入企業と非導入企業の比較
図表 CxO 制度導入企業と非導入企業の比較
***、**、*、.、はそれぞれ0.1%、1%、5%、10%水準で有意であることを示している。NEDは社外取締役、BoDは取締役会、NEDdivBoDは取締役会における社外取締役比率を示している。また、pct foreignは海外売上高比率、HHIは多角化度、R&D intensityは売上⾼R&D⽐率を⽰している。