ノンテクニカルサマリー

日本企業の社内デザイン組織のKPI策定

執筆者 鷲田 祐一(ファカルティフェロー)/西垣 淳子(上席研究員)/毛 鋭(一橋大学)/肥後 愛(経済産業研究所 / 一橋大学)/山内 文子(ソニーデザインコンサルティング株式会社 / ソニーグループ(株)クリエイティブセンター)/江下 就介(ソニーデザインコンサルティング株式会社 / ソニーグループ(株)クリエイティブセンター)
研究プロジェクト 「デザイン」の組織経営への影響に関する量的検証
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「「デザイン」の組織経営への影響に関する量的検証」プロジェクト

日本の大企業はインハウスデザイン組織を持つ場合が多いが、そのような組織の活動評価について量的な指標が定まっておらず、企業経営上の問題になってきた。特に、広義の「デザイン」を企業経営に活かそうという、いわゆる「デザイン経営」の普及と推進においては、デザイン要素が経営に与えるインパクトを検討するための標準的な量的管理指標(Key Performance Indicator: KPI)が必須であるが、現状ではそのような指標は未整備・未定着であると言わざるを得ない。

この問題の解決を目指すために、本研究では国内有力大企業14社のインハウスデザイン組織がそれぞれの社内ステークホルダーにどう評価されているかを統一された質問票を用いて調査(有効回答数1579)することで、企業の枠を超えたKPIの同定を試みた。その結果、デザイン思考の活用や企業ブランディングへの貢献など従来のデザイン部の機能を超えた7つの因子がKPIとして定着していることが検証された。

14社それぞれの7つの指標の調査結果は表1のようになった。これをもとにコレスポンデンス分析を実施して、14社の分布を図示したのが図1であるが、これによると、経済産業省・特許庁が2018年に公表した「デザイン経営宣言」で重視された「ブランド力向上」と「商品価値向上」をさらに超えて、「ユーザーコミュニケーション」「提案力・情報提供」などの因子にまで活動範囲を広げている企業もあることが検証された。いっぽう、「知財」という成分は現状では残念ながらデザイン組織の活動評価にあまりつながっていないことも示唆された。

総じて、今回の研究結果によれば、「デザイン経営」宣言はいまだ十分に日本企業に浸透しておらず、また意匠法の改正も効果的に市場インパクトを与えていないことが推察される。意匠法をはじめとする「知財」成分を効果的に「デザイン経営」に反映させるためには、特許に偏重した日本の知財行政を方向転換し、意匠と商標の重要性を再認識すると同時に、それらを財務会計上の量的指標に反映させるために、本研究が提案するKPIをもとにして会計費目としての「デザイン費」の普及を公会計主導で推し進めることが必要と考えられる。

いっぽう、経済産業省2019年に公表した「産学連携サービス経営人材育成事業『高度デザイン人材育成の在り方に関する調査研究』報告書」で示唆された多様な「デザイン人材」の育成に関しては、図1のように様々な特徴の違うデザイン組織が発展してきていることから、ある程度実現してきていることが推察される。このような多様な「デザイン人材」の処遇に関する基本的な考え方の確立についても本研究が提案するKPIを役立てることが可能と思われる。

このような諸活動・諸施策を通じて、いわゆる「デザイン経営」を国内の産業組織・行政組織に根付かせることか可能になり、ひいては第4次産業革命によるDXの推進とAI活用の高度化が進む近未来においても、人間の創造性を高め、社会経済の高度化を推進するための新しい企業経営ビジョンが視野に入ってくると期待される。

表1. 14社の7つの因子と総合満足度の平均値分布
表1. 14社の7つの因子と総合満足度の平均値分布
図1. コレスポンデンス分析の結果
図1. コレスポンデンス分析の結果