ノンテクニカルサマリー

自治体DXの実証研究

執筆者 浜口 伸明(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト アフターコロナの地域経済政策
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「アフターコロナの地域経済政策」プロジェクト

研究の背景

政府は成長戦略の原動力としてデジタル化への集中投資を表明している。2000年に制定されたIT基本法の下で社会基盤としてインターネットの整備が進められてきた後、焦点はハードから情報に移り、2016年に制定された官民データ活用推進基本法は行政手続きを原則オンラインに移行すること(オンライン・ファースト)と、集積される情報を活用して様々な社会的課題を解決する環境の整備に取組んでいる。そこで、生活に密着した大量の行政情報を握る地方自治体をデジタル社会の基盤に据えることがカギを握ると言っていいだろう。2020年12月には「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」と「デジタル・ガバメント実行計画」が閣議決定され、総務省は「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」(2020年)を策定した。本研究では自治体DXの現在地を明らかにし、課題を探ることを目的とする。

自治体DXとは:効率化、高度化と地域の価値創造

デジタル・トランスフォーメーション(DX)とは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(注1)とされる、企業の経営戦略を指す。では、自治体のDXとはどのように定義できるだろうか。本研究では、自治体DXを、社会全体のデジタル化の進展とともに人口減少と少子化・高齢化が進む社会環境の変化に直面している自治体が、自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、デジタル技術や AI 等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていくことであるとともに、地域において多様な主体によるデータの円滑な流通を促進し、多様な主体との連携により民間のデジタル・ビジネスなど新たな価値等の創出を推進する地域産業政策としての視点も併せ持つものと考える。

データ

本研究が分析する情報は独立行政法人経済産業研究所が実施した「2021年度「自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に関するアンケート調査」」から得たものである。全国1718の市町村と47都道府県を対象に2021年10月にアンケートを実施し、42%の自治体から回答を得た(アンケート票の内容はディスカッションペーパー末尾の付録を参照)。

分析結果

表1は、文書のデジタル化、申請書等のオンライン化、AIチャットボット等による窓口対応の自動化、RPAによる内部情報処理の自動化、APIによる組織内および組織間のデータ連携、政府が提供する地域経済分析システム(RESAS)を活用した分析、地域中小企業の情報化支援といったDXと関連する取り組みについて、導入予定なしから本格実施までどの段階にあるのかを尋ねた質問に対する回答を集計したものである。デジタル化とオンライン化は以前から導入が求められてきたものであることから、ほとんどの自治体は計画段階以降の段階にある。窓口対応の自動化、データ連携、データ分析、地域の情報化支援は導入予定なしのシェアの大きさが目立っている。

表2は「DXを行った結果、業務フローや組織の見直しにつながりましたか」という質問に対する回答を集計したものである。とくに人口5万人未満の小規模自治体で「DXを行っていない」という回答が高いシェアにある。一方で一番右の列に示した、DXを行っている自治体の中で業務フローや組織の見直しにつながったところのシェアは規模による差は小さく、自治体の規模に関わらず、DXに着手したところでは組織の最適化につながるといえそうである。

論文では自治体が指摘するDXを困難にする要因とDXを行っていないと回答したことの関連を明らかにするためのプロビット分析を行っている。その結果、ノウハウの不足、内部人材育成の難しさ、書面による手続きの多さなどの要因が実際にDXの障害になっていることがわかった。小規模自治体ではIT設備やセキュリティ体制などハードウエア面での制約にも直面している。

さらに分析を進めていくと、DXの推進が業務フローや組織の見直しにつながったと回答した、より成熟したDXの段階にある自治体では、より高い水準でテレワークを実施し、RESASをより積極的に活用してDXを地域に面的に波及させていこうとする政策立案の姿勢にも結び付いていることが見いだされた。

本研究から見えてきたこと

自治体は本論文が明らかにしたようなDXを推進するための制約に直面しており、小規模自治体で特にハードルが高いと考えられているようである。しかし、内部で足りないリソースは外部人材、ベンダーから受ける支援、先行自治体から提供されるノウハウなどを活用して可能な範囲で意欲をもって着手することが望まれる。自治体DXにより利便性が高まる便益の提供を自治体に求める要望が住民から高まることは自治体のやる気を刺激することになるであろう。地域産業のデジタル革新を求める事業者の声も重要である。

定型的な業務はできる限り共通化・自動化することができれば、貴重な人員を必要性が高い業務に集中的に投入し、公共サービスに地域の必要に適合した変革を起こすことができる。このような変革は、基盤的な公共サービスの維持に苦労している小規模な自治体にとってメリットが大きい。したがって、自治体が直面するDXの障壁を緩和する支援の必要性は高いと言える。

表1 DX取り組みの状況
表1 DX取り組みの状況
各欄の上段は回答数、下段は各人口規模分類中の構成比(%)
表2 DXを行った結果、業務フローや組織の見直しにつながりましたか
表2 DXを行った結果、業務フローや組織の見直しにつながりましたか
各欄の上段は回答数、下段は各人口規模分類中の構成比(%)
脚注
  1. ^ 経済産業省 (2018) 「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.」
    https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dx_guideline.pdf