ノンテクニカルサマリー

土地投入と地域間生産性格差

執筆者 徳井 丞次(ファカルティフェロー)/水田 岳志(元一橋大学経済研究所)
研究プロジェクト 地域別・産業別データベースの拡充と分析-地域間の分業と生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「地域別・産業別データベースの拡充と分析-地域間の分業と生産性」プロジェクト

生産性の要因分解を行うとき、労働投入や資本投入は生産要素の投入として計測されるが、土地の投入が考慮されることはほとんどない。それは、多くの場合に生産性の時系列方向の伸びに注目するので、土地投入の変化は労働投入や資本投入に比べて小さく、わざわざ計測する必要がないと考えられるためだろう。しかし、例えば地域間のような、クロスセクション・データで生産性水準の格差を考えることきにも、同じように考えてよいのであろうか。

加えて、近年観察される地域間生産性格差の主な原因は、広義のサービス業での生産性格差に起因していることが知られている。もちろん、広義のサービス産業のなかには、情報通信業のように近年目覚ましい技術進歩を経験してきた分野があることも事実である。しかし、地域間生産性格差はそうした先端技術分野に限らず、例えば小売業のような伝統的なサービス業においても顕著に観察されるのである。そして、小売業に代表されるような対面型のサービス業では、立地条件の優位性が生産性を左右することも知られている。そうした立地条件の差を生産性要因分解に組み入れようと考えれば、それは地価に反映されていると考えられる。この点で、生産性水準の地域間格差を分析するうえで、生産要素の1つとして土地投入を計測することの意義が生まれる。言い換えれば、これまで全要素生産性(TFP)水準の地域間格差として捉えられてきたものの一部が、立地条件の差を含んだ土地投入の寄与として捉え直すことができるかもしれない。

こうした問題意識から、R-JIPデータベース2021に対応する産業分類で都道府県別の土地投入を計測し、それを使って土地投入を含む地域間生産性格差の分析を行った。まず、金額ベースの土地ストックを推計し、それを使用者費用概念に変換することによって土地投入サービスを計測した。土地投入サービスは、それぞれの都道府県、産業で土地の1年間の利用にどれだけの費用が発生しているかを測る概念で、その土地利用に伴う地代相当額と考えて差支えない。それと異なる土地投入計測の方法としては、単純に面積で測るといった方法も可能だが、それでは立地による地価の違いは反映されず、われわれの問題意識に答えられない。また、R-JIPデータベースの全要素生産性計測では、資本投入も資本サービス概念で計測していることから、土地投入についても同じ考え方で計測するのが整合的となる。

土地投入の計測方法は、総務省「固定資産の価格等の概要調書」の都道府県別工業地と商業地の評価金額を出発点にして、R-JIPデータベース2021の資本ストック、「法人企業統計」の産業別の土地と有形固定資産の比率、「工業統計調査」の業種別土地利用などのデータを使ってR-JIPデータベース2021の産業分類に按分していった。詳しい作業方法の説明はディスカッション・ペーパーに譲るが、出発点となる「固定資産の価格等の概要調書」が固定資産税額推計のための行政データであることから、評価替えのタイムラグや政策的措置による評価価格のバイアスなどが含まれ、それを最初に補正してから産業別の按分作業に進んだことを報告しておく。

推計された土地投入サービスのデータをR-JIPデータベース2021と組み合わせることによって、土地投入を考慮して地域間生産性格差の要因分解ができる。ここではそのなかから、広義サービス業に焦点を当てて、地域を三大都市圏中心部(東京、名古屋、大阪)、三大都市圏、それ以外に集計した結果をみてみよう。図では、その結果を1995年と2018年を比較できるように並べて表示している。図の棒グラフは、労働生産性の地域格差(全国幾何平均に対する乖離率)を資本装備率(青)、土地集約度(オレンジ)、労働の質(グレー)、TFP水準(黄)の地域間格差に分解している。

分解の結果は、バブル経済の余韻の残る1995年と、それから20年余りが過ぎた2018年では大きく異なる。三大都市圏中心部に注目すると、1995年にはTFP相対水準、労働の質、土地サービス集約度の3つの要因がほぼ同じ割合で労働生産性に寄与していた。それが、2018年になると、土地サービス集約度の寄与や10分の1ほどに縮小し、労働の質の貢献がやや大きくなり、TFP水準格差の寄与が3倍程度に拡大した。ここでの土地サービス集約度は労働投入のマンアワーで相対化されて測られているので、最近年の土地サービス集約度の寄与度に大きな地域差がないということは、地価が経済活動の水準に比例して価格付けされているともいえるが、サービス活動の立地条件の差を適切に反映できていないともいえそうだ。

図 広義サービス業の土地投入を含む労働生産性要因分解の地域圏比較(1995年と2018年)
図 広義サービス業の土地投入を含む労働生産性要因分解の地域圏比較(1995年と2018年)
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(注)本論文図表11の結果を、付加価値シェアで三大都市圏中心部、三大都市圏、三大都市圏以外の地域に集計した。