ノンテクニカルサマリー

デジタル貿易諸協定における個人情報保護法制とデータ・ガバナンス

執筆者 石井 由梨佳(防衛大学校)
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)」プロジェクト

デジタル貿易諸協定のうち、高水準の義務を定めるものは、事業実施のためのデータの越境移転の自由の確保、コンピューター関連設備の設置要求の禁止、ソースコードやアルゴリズム開示要求の禁止規定を置く。他方で協定締結とは別に、近年では、各国が個人情報やデータの保護法制を新たに制定したり、強化したりしている。

しかし、そのような各国法制には、上記のデジタル貿易諸協定の規則に抵触し得るものが含まれている。本稿では(1)個人情報保護法制及びデータ保護法制と、(2)データ・ガバナンスの一環として輸入国が事業者に対して取る措置、特にソースコードあるいはアルゴリズムの開示を求める規制が、デジタル貿易諸協定においてどのように位置付けられているかを実証に基づき検討する。

個人情報保護にせよ、データ・ガバナンスあるいはデータ倫理にせよ、データの利活用に関して国際的に確立した基準はなく、各国法制には大きな相違がある。そのため、現状では同志国(like-minded countries)の間で高水準のデジタル貿易協定が締結される一方、一部の国ではデータローカライゼーションが強化されている。

デジタル貿易協定では自由化義務のレベルが協定によって異なっており、低水準のものであれば個人情報保護の問題は顕在化しない。しかし、高水準の協定を締結するときには、個人情報保護法制におけるデータの越境移転規制にせよ、安全保障目的等でのデータローカライゼーションにせよ、データ流通への制限について合意できるかは、協定締結の分岐点である。これまで締結された協定については、EUを別にすれば、個人情報保護法制の水準の相違は許容し、相互に信頼できる国との間で運用性を強化していくアプローチが取られることが多い。

データ・ガバナンス措置については各国内レベルでは法制に取り入れることが増えている。他方で、そのような措置の水準については、国際的に確立したものがなく、デジタル貿易協定において具体的な規則が入っている例は少ない。高水準のデジタル貿易協定を締結する場合には、少なくとも適正な利用や、国際協力について努力義務規定を入れ、技術の変化に応じて柔軟な対応をすることが必要になる。

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