ノンテクニカルサマリー

VC投資家タイプは重要か?新規企業に対するVC投資の要因と効果

執筆者 加藤 雅俊(関西学院大学)/Nicolas LEGENDRE(HEC Montreal)/吉田 大喜(慶應義塾大学)
研究プロジェクト アントレプレヌール・エコシステムの形成
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「アントレプレヌール・エコシステムの形成」プロジェクト

ベンチャー・キャピタル(VC)が新規企業の成長過程に果たす役割については様々な研究がなされており、VCが新規企業の成長過程に重要な役割を果たすことが示されている。VCは投資からのリターンを最大化するために「勝者」を選ぶ傾向がある一方で、新規企業に対するコーチング機能も持っている(Colombo and Grilli, 2010)。VC投資家は異質である。例えば、文献では、独立系、コーポレート系、金融系などのVC投資家の行動の違いが議論されている(Bertoni et al., 2013;Wang et al., 2002)。しかし、どのような新規企業がVC投資家から投資を受ける可能性が高いのか、また、どのようなVC投資家が新規企業のパフォーマンス向上に貢献しうるのかについては、まだ十分に検討されていない。また、VC投資家の投資判断が、新規企業のイノベーション活動とどのように関連しているのか、あるいは、それがイノベーションの成果にどのような影響を与えるのかについて必ずしも明らかではない。これらの疑問に答えることは、新規企業の資金調達の意思決定や政府の政策決定に何らかの示唆を与える可能性がある。

本研究では、日本の新規企業に対するVCの支援について検討し、VCの支援の決定要因や効果がVCの投資家タイプによってどのように異なるかを探った(図1を参照)。その結果、独立系VCからの投資を受けた新規企業は、VCから投資を受けなかった企業よりも規模が大きく、若く、イノベーティブである傾向があることが分かった。しかし、コーポレートVC、金融系VC、政府系VCからの出資に影響を与える要因は、独立系VCに影響を与える要因と大きく異なっていることが示された。次に、VCからの支援の効果を明らかにするために、傾向スコアマッチングの手法を用いてマッチドサンプルを作成した。このサンプルを用いて、VCからの投資を受けることによる平均トリートメント効果を推定し、VCの支援を受けた新規企業が、非VC支援企業と比べてより優れた成長およびイノベーションのパフォーマンスを達成するかどうかを明らかにした。その結果、独立系VCからの投資は新規企業のパフォーマンスを向上させることが示された。しかし、他の投資家タイプ(コーポレートVC、金融系VC、政府系VC)からの投資に関しては、新規企業のパフォーマンスに対する有意な効果は見られなかった。

図1. 本研究のモデル
図1. 本研究のモデル

本研究からは、いくつかのインプリケーションが導き出される。第一に、新規企業の立場からは、VCからの投資を受けることは参入後の重要なマイルストーンであるが、その後の成果はVCの投資家のタイプによって大きく異なる可能性があることを本研究は示唆している。新規参入企業は、新規性の不利益(liability of newness)による困難に直面し、創業後間もない時期に市場から退出するリスクが高い。そのため、参入後早期にVCの支援を受けることで、高い成長性とイノベーションを達成する確率が高まる可能性がある。本研究では、様々なタイプのVCから投資を受けるために必要な要因を明らかにした。例えば、付加価値の高い活動を行う独立系VCから投資を受けるには、参入後の早い段階で特許出願を行うことが鍵となる。

この研究は、いくつかの政策的含意を持つ。政府はいくつかの方法で新規企業を支援している。先行研究が示すように、政府VC投資は民間VC投資の呼び水となる一方で、コーチングや価値付加活動への関与は限定的である(Colombo et al., 2016; Grilli and Murtinu, 2015)。本研究は、政府系VCは特許を持つ新規企業に投資する(=勝者を選ぶ)傾向があるが、その関与は成長やイノベーションの成果を向上させない可能性があることを示唆している。しかし、政府はVC投資のための理想的な環境を整え、直接的な支援を行うという重要な役割を担っている。本研究では、コーポレートVCや金融系VCなどのキャプティブVC投資家による新規企業への投資は、パフォーマンスに対する付加価値効果がない可能性が示唆された。これに対し、独立系VCからの投資は、成長やイノベーションを促進する可能性が高い。したがって、独立系VCの投資を増やす環境を整えることは、新たなイノベーション企業による経済活性化を促進するために不可欠であると思われる。そのため、政府は独立系VCの投資を促進するための政策手段を検討する必要があるかもしれない。独立系VC投資家は、他のVC投資家とは異なり、投資からのリターンの最大化を目指している。したがって、独立系VCが投資からのリターンを早期に獲得できるような環境整備が必要であろう。

参考文献
  • Bertoni, F., Colombo, M. G., & Grilli, L. (2013). Venture capital investor type and the growth mode of new technology-based firms. Small Business Economics, 40(3), 527–552.
  • Colombo, M. G., Cumming, D. J., & Vismara, S. (2016). Governmental venture capital for innovative young firms. Journal of Technology Transfer, 41(1), 10-24.
  • Colombo, M. G., & Grilli, L. (2010). On growth drivers of high-tech start-ups: Exploring the role of founders' human capital and venture capital. Journal of Business Venturing, 25(6), 610-626.
  • Grilli, L., & Murtinu, S. (2015). New technology-based firms in Europe: market penetration, public venture capital, and timing of investment. Industrial and Corporate Change, 24(5), 1109-1148.
  • Wang, K., Wang, C. K., & Lu, Q. (2002). Differences in performance of independent and finance‐affiliated venture capital firms. Journal of Financial Research, 25(1), 59-80.