執筆者 | 中川 淳司(ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 持続可能性を基軸とする国際通商法システムの再構築 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「持続可能性を基軸とする国際通商法システムの再構築」プロジェクト
本プロジェクトは、国際通商法システムが直面している正当性危機を克服するための方策として、持続可能性の達成を国際通商法システムの目標に据え、これを達成する手段として国際通商法システムを位置づけ、再構築することを提案する。再構築に向けた取り組みとして、持続可能な開発目標(SDGs)と国際通商法システムの関連を批判的に検討した。SDGsで国際通商法システムに言及しているターゲットは以下の表の通りである。
2.b | ドーハ開発ラウンドのマンデートに従い、全ての農産物輸出補助金及び同等の効果を持つ全ての輸出措置の同時撤廃などを通じて、世界の市場における貿易制限や歪みを是正及び防止する。 |
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3.b | TRIPS協定及び公衆の健康に関するドーハ宣言に従い、安価な必須医薬品及びワクチンへのアクセスを提供する。 |
8.a | 後発開発途上国への貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)等を通じた支援を含む、開発途上国、特に後発開発途上国に対する貿易のための援助を拡大する。 |
10.a | WTOに従い、開発途上国、特に後発開発途上国に対する特別かつ異なる待遇の原則を実施する。 |
14.6 | 開発途上国及び後発開発途上国に対する適切かつ効果的な、特別かつ異なる待遇が、世界貿易機関(WTO)漁業補助金交渉の不可分の要素であるべきことを認識した上で、2020年までに、過剰漁獲能力や過剰漁獲につながる漁業補助金を禁止し、違法・無報告・無規制(IUU)漁業につながる補助金を撤廃し、同様の新たな補助金の導入を抑制する。 |
17.10 | ドーハ・ラウンド(DDA)交渉の受諾を含むWTOの下での普遍的でルールに基づいた、差別的でない、公平な多角的貿易体制を促進する。 |
17.11 | 開発途上国による輸出を大幅に増加させ、特に2020年までに世界の輸出に占める後発開発途上国のシェアを倍増させる。 |
17.12 | 後発開発途上国からの輸入に対する特恵的な原産地規則が透明で簡略的かつ市場アクセスの円滑化に寄与するものとなるようにすることを含むWTOの決定に矛盾しない形で、全ての後発開発途上国に対し、永続的な無税・無枠の市場アクセスを適時実施する。 |
しかしながら、SDGsと国際通商法の関連は、以上に尽きるものではない。本DPは、SDGsにおける国際通商法への言及が、①国家を名宛人とする国際通商法に限定している(国家バイアス)、②WTOのルール・活動にのみ言及している(WTOバイアス)、③WTOのルール・活動における途上国の関心事項に限定している(途上国バイアス)、④途上国の関心事項の中でも、物の輸出増に限定している(輸出バイアス)という4つのバイアスを抱えていることを指摘した。そして、これらのバイアスを克服するため、①私人・企業を名宛人とする国際通商法の要素をSDGsに追加する、②WTO以外の国際通商法の要素(特にFTA/EPA)をSDGsに追加する、③WTOのルール・活動で、途上国の関心事項以外の要素をSDGsに追加する、④WTOにおける途上国の関心事項で、物の輸出増以外の事項をSDGsに追加する、という4つの追加を提案した。そして、これらの追加により拡大されたSDGsをSDGs2.0と名付けた。ただし、本DPにおけるSDGs2.0の提案は、上記②の作業を予備的に行ったものであり、WTO以外の国際通商法の要素、特にFTA/EPAにおける持続可能性配慮の規定の分析を体系的・包括的に行うことで、SDGs2.0の内容をさらに拡大することが必要である。これを今後の課題として指摘する。