ノンテクニカルサマリー

わが国の航空市場におけるコードシェア便が市場競争に与える影響

執筆者 高 龍野(東京大学)/大橋 弘(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 産業組織に関する基盤的政策研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「産業組織に関する基盤的政策研究」プロジェクト

わが国の航空産業は、国内外を問わず、これまでいくつもの厳しい需要減に見舞われてきた。例えば2001年9月11日の世界同時多発テロ、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)、2008年秋からの世界緊急危機、2019年末から拡大を続ける新型コロナウィルス感染などが典型だろう。こうした厳しい事業環境における航空会社の取り組みのなかで、複数競合社による共同運航(コードシェア)を行うケースが見られる。本稿では運賃のみならず、運航頻度も内生化した構造推定において、2011年から18年までの国内航空市場について、各O(基点)-D(終点)を市場単位として、コードシェアの競争性に対する影響分析を行った。なおコードシェアの販売座席数制限が2013年1月に、それまでの25%から50%に上昇しているため、その変化を識別に用いている。

一般的にコードシェアは、経済学的には2つの効果をもたらすことが想定される。ひとつは、競争を制限する効果である。そもそも各社がそれぞれ運航すべきところ、共同で運航をすることで競争が回避されている効果である。もう一つの効果は、共同で運航することによる効率性が向上する効果である。推定の結果、コードシェアによる販売座席数の割合は、2012年を境に4倍近く上昇したことが判明した。またコードシェアによる競争制限効果が、効率性向上効果を上回ることも明らかになった。

新規航空会社(LCC)の独立性を保つために、大手会社による出資等に係る制限を議決権の20%未満としている。しかし2013年におけるコードシェア比率の緩和によって、出資等制限で見込まれる価格上昇幅を超えて、企業連携による競争制限が進んでいる実態が示唆された。この点は、国内航空市場におけるLCCとのコードシェアの拡大のなかで、LCCの独立性が競争主体として維持されているかについて、更なる検討が必要であることを示唆している。

図1 コードシェアの構造
図1 コードシェアの構造
事業者Aが運航し、事業者Bにコードシェアを通じてλだけの割合の座席を卸価格wで販売しているケース(コードシェア便について1席当たりAはpcaの価格で、Bはpcbで座席を販売している。Aのみでの運航便での運賃は1座席当たりpa、Bの場合はpb)。