ノンテクニカルサマリー

サプライチェーンダイナミクスの解明:理論と実証

執筆者 川窪 悦章(London School of Economics)/鈴木 崇文(愛知淑徳大学)
研究プロジェクト ポストコロナの地域経済と地域金融の役割
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「ポストコロナの地域経済と地域金融の役割」プロジェクト

サプライチェーンはどのように形成されているのだろうか。企業は、他の企業から物資を購入したり、他の企業へ部品等を販売したりすることで、相互に関係している。企業はこうしたサプライチェーンを形成しているが、成長する過程でそれを再構築していく。自社にとって最適な取引先を見つけることができるのであればよいが、適切な取引相手が見つからない場合、製造した製品を販売したり、生産活動に重要な材料を購入したりするのに困難が生じる。したがって、取引相手のマッチングは取引の両側にとって重要な問題だと言える。既存研究では、サプライチェーンを通じて経済ショックや政策変更の影響が伝播することが確認されているが、サプライチェーン自体が動的にどのように構築されるのかについての分析は限られている。そこで、本研究では東京商工リサーチの取引データを用いて、理論的及び実証的な観点から企業間取引ネットワークの動態を分析した。

まず、企業の取引関係の特徴についてまとめたものが表1である。パネルAでは分析に用いたサンプルにおける平均的な仕入先企業数および顧客企業数について示しており、両者とも約7社程度であることがわかる。また、パネルBでは、各取引関係について、次の年の状態を要約している。これによると、来年取引が消滅する確率は20%であり、新たに取引が生じる確率は12.6%となっている。さらに長期間における取引関係の動態について確認したものが、図1である。縦軸には取引関係の累積残存確率、横軸には取引関係の経過年数がとられている。この図から、最初に存在する取引関係は、約10年経過すると80%が消滅していることが分かる。以上から、仕入企業あるいは顧客企業のいずれかが市場から退出する場合を除外したとしても、時間の経過とともにサプライチェーンが大きく変化することが確認された。

表1 取引ネットワークの特徴
表1 取引ネットワークの特徴
図1 取引関係の生存曲線
図1 取引関係の生存曲線

次に、自社の生産性と仕入先企業の生産性との関係についての分析を行った。その結果、自社の生産性と仕入先企業の生産性に正の相関関係が観察された。これは、取引関係において、正のマッチングが存在することを示している。つまり、生産性の高い企業は、生産性の高い企業との取引を継続し、生産性の低い企業との取引を停止する可能性が高い。さらに、生産性の高い企業は、生産性の高い取引先と新たに取引を開始する傾向がある。本研究では、以上の得られた知見を経済学的に説明するために、理論モデルを構築した。モデルから、生産性ショックに応じたサプライチェーンの形成と再構築への示唆が得られる。