ノンテクニカルサマリー

我が国の地域間生産ネットワークの長期的変遷について

執筆者 大久保 敏弘(慶應義塾大学)/笹原 彰(慶應義塾大学)
研究プロジェクト グローバル経済が直面する政策課題の分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「グローバル経済が直面する政策課題の分析」プロジェクト

本論文では、1960年から2005年までの経済産業省の地域間産業連関表を用いて、日本国内の地域間の生産ネットワークがどのように変化してきたのかを検証した。地域間の生産ネットワークを測る上で、アウトソーシング指数(Outsourcing index)、川上度指数(Upstreamness)、川下度指数(Downstreamness)、実証的比較優位指数(Empirical comparative advantage)、付加価値貿易(Trade in value added)など、近年の実証分析で用いられている指標を計算した。

分析の結果、製造業の多くの産業において、国内生産ネットワークの拡大度合いが1990年以降鈍化していることが示された。例えば、図1の左のパネルは、軽工業・重工業(輸送用機器以外)・輸送用機器の大分類で計算した国内アウトソーシング指数(それぞれの産業の中間財をどれくらい国内の他地域での生産に依存しているかを測る指数)である。軽工業と重工業では、1960年から1975年にかけて国内アウトソーシングが低下傾向にあったが、その後上昇傾向に転じ、1990年以降に再び低下傾向に転じている。一方で、輸送用機器産業では、分析期間を通じて国内アウトソーシングが一貫して拡大傾向にある。

図1の右のパネルには、それぞれの産業の海外アウトソーシング指数(中間財をどれくらい海外からの輸入に依存しているかを測る指数)を示している。これによると、軽工業と重工業では1990年以降、海外へのアウトソーシングが大きく拡大しているのに対し、輸送用機器産業ではその拡大度合いが小さいことがわかる。このように、海外アウトソーシングが拡大した産業では国内生産ネットワークの拡大度合いが鈍化したことが示唆される。図2は製造業の11産業について、「国内アウトソーシング指数の時間を通じた変化」と「海外アウトソーシング指数の時間を通じた変化」が、特に1990年以降において負の相関を持つことを示している。図1から示唆される結果と整合的である。

本論文では、前述の各指標についてこのような記述的な分析を行い、概ね整合的な結果が得られた。輸送用機器産業の特殊性については様々な要因が考えられるが、例えばAsanuma (1989) や Aoki (1988) は、最終財企業と中間財企業の間に関係特殊的取引関係があることを指摘している。グローバル化によって国内経済がどのように変容してきているのか理解することは、今後の貿易政策や投資政策を考える上で重要である。

図1:国内アウトソーシング指数と海外アウトソーシング指数
図1:国内アウトソーシング指数と海外アウトソーシング指数
注:経済産業省の地域間産業連関表のデータを元に筆者らが推定。製造業の11産業のデータを中間財総使用額の加重平均をとって3産業のデータにまとめている。本論文中のFigure 3のPanel Aである。
図2:国内アウトソーシング指数の変化と海外アウトソーシング指数の変化
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図2:国内アウトソーシング指数の変化と海外アウトソーシング指数の変化
注:経済産業省の地域間産業連関表のデータを元に筆者らが推定。本論文中のFigure 3のPanel Bである。
引用文献
  • [1]. Aoki, Masahiko (1988) Information, Incentives and Bargaining in the Japanese Economy, Cambridge University Press: Cambridge.
  • [2]. Asanuma, Banri (1989) “Manufacturer-supplier relationships in Japan and the concept of relation-specific skill.” Journal of the Japanese and International Economies, 3(1): 1-30.