ノンテクニカルサマリー

二面市場における独占プラットフォームへの最適関税

執筆者 高 國峯(淡江大学)/椋 寛(学習院大学)
研究プロジェクト グローバル経済が直面する政策課題の分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「グローバル経済が直面する政策課題の分析」プロジェクト

経済のデジタル化がますます進行するなか、消費者とサービス提供者をプラットフォームがオンラインで接続するという、新しい市場形態が形成されている。このような市場では、消費者とサービス提供者が、プラットフォームを通じて相互依存しており、サービス提供者の参入はプラットフォームへの消費者需要を高め、その需要の高まりはサービス提供者のさらなる参入を促す構造となっている。すなわち、ネットワーク外部性が両面で生じることになる(図1参照)。こうした市場は二面市場(Two-sided markets)と呼ばれる。デジタル経済の特性を掴み、それを政策に生かすためには、二面市場の分析を深めることが必要不可欠である。しかし、プラットフォームが世界各国に供給されているにも関わらず、二面市場における貿易政策の影響を論じた研究はほとんどない。

図1 ネットワーク外部性とプラットフォーム財の需要
図1 ネットワーク外部性とプラットフォーム財の需要

そこで本研究では、プラットフォームが独占的に供給されている状況において、プラットフォーム財に対する輸入国の最適関税について分析を行った。例えば、ゲーム機やスマートフォンはオンラインゲームやサービスとユーザーを繋げる「プラットフォーム財」となるが、それらの財に途上国が輸入税を課している例が散見される。オンラインで提供されるプラットフォームについても、近年各国で検討されているデジタルサービス税が、実質的な輸入税として機能しうる。果たして、プラットフォーム財が独占的に供給される場合、輸入国は輸入税を課すべきであろうか。

外国独占下の輸入税を分析した従来の研究では、需要関数の形状に応じて最適な輸入政策が決定されることが明らかにされている。しかし、二面市場では、ネットワーク外部性の大きさと他の輸入国の政策が、各国の独占プラットフォームに対する最適輸入政策を左右する。具体的には、消費者サイド(α)とサービス提供者サイド(φ)のネットワーク外部性が十分に⼤きいとき、プラットフォーム財に対する輸入税は輸入国の厚生を下げてしまう。すなわち、自由貿易ないし輸入補助金が最適な輸入政策となる。ネットワーク外部性が大きい場合、外国独占企業の利潤を輸入税によりシフトする効果よりも、ネットワーク効果を通じて提供されるオンラインサービスが大きく縮小し、消費者余剰が下がる影響の方が大きくなるからである。

さらに、二面市場においては、他国の輸入税の上昇が、ネットワーク効果を通じて自国の輸入を減らすため、各国の輸入政策に相互依存関係が生じる。結果として、輸入国が協力的して輸入税を設定する場合には自由貿易ないし輸入補助金が望ましい場合でも、非協力的に関税を設定すると全ての国が輸入税を課してしまい、厚生が協力関税のケースよりも小さくなる場合がある。図2のように、消費者側とサービス提供者側のネットワーク外部性が、どちらも中間的な大きさである時に、こうした協力関税と非協力関税の逆転現象が生じる。

図2 協力関税と非協力関税
図2 協力関税と非協力関税

本研究の結果は、デジタル化が進行し消費者とサービス提供者がプラットフォームを通じてオンラインでつながっている状況では、各国の貿易政策のあり方について再検討が必要であることを示唆している。また、越境データ移転の促進や、デジタル分野の知的財産権の保護は、φやαを高める要因となるため、サービス提供者の利益を高めるのみならずプラットフォーム財の貿易自由化を促進し、消費者利益を高める面がある。また、二面市場においては各国の貿易政策の相互依存性が強まるため、プラットフォーム財に対する関税面での協力が、より一層重要となる。