ノンテクニカルサマリー

企業間取引関係がテレワーク導入に与えた影響:コロナ禍における日本における調査に基づくエビデンス

執筆者 冨浦 英一(ファカルティフェロー)/熊埜御堂 央(リサーチアシスタント / 一橋大学)
研究プロジェクト グローバル化、デジタル化、パンデミック下における企業活動に関する実証分析
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「グローバル化、デジタル化、パンデミック下における企業活動に関する実証分析」プロジェクト

新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」と略記)の拡大に対し、対面接触の削減のためテレワークが推奨されたが、実際に導入した企業は限られた。テレワークは、個々人の働き方や企業組織を変革するもので、導入には企業によっては多くの摩擦を伴う。従来から多くの企業と取引を行っている企業は、調整の経験が豊富であるために、テレワークの導入もスムーズであった可能性もあるが、他方で、調整を要する取引先を多く抱えているためテレワーク導入を躊躇した可能性もある。このため、本論文では、コロナ対応に関するRIETI独自アンケート調査結果を企業間取引関係に関するデータベースとリンクさせ、コロナ以前における企業間取引ネットワークが個々の企業のテレワーク導入に与えた影響の分析を行った。

まず、コロナに対する対応策について、わが国の製造業・卸売業に属する中堅・大企業に、RIETIでアンケート調査を2021年1月に実施した。22,948社に調査票を送り、6,722社から回答があった。その結果の概要については、別途、冨浦・伊藤・熊埜御堂(2021)としてとりまとめたところである。

次いで、このアンケート調査結果を、企業間取引関係に関する東京商工リサーチ企業相関データベースにリンクさせ、6,530社について、各社の取引先企業(購入元・販売先)の社数を調べた。東京商工リサーチ企業情報データベースに収録されている経営者の個人特性等に関するデータも分析に用いた。

コロナ禍におけるテレワークの導入を左辺の被説明変数とし、右辺にコロナ以前における企業の取引先企業数を取り入れた回帰式を推定したところ、コロナ以前に多くの企業から購入を行っていた企業の方がコロナ禍においてテレワーク導入に積極的であった傾向が見られた。他方で、多くの企業に売り込んでいる卸売企業では、テレワークへの移行が進んでいないことも明らかになった。規模の大きな企業ほど多くの企業と取引関係を構築する傾向があるが、これらの結果は、企業規模をコントロールした後でも統計的に有意なものである。多くの企業とネットワークを構築している企業の方が、他社との調整の経験から、テレワークの導入もよりスムーズに遂行する能力を有していると解釈できよう。テレワークにより対面接触を省くメリットも、多くの取引先を持つ企業の方が大きいということであろう。また、コロナ以前には、このような関係は観察されなかったことから、予期せざるコロナ禍への対応に従来からの調整の経験が生かされたことを示唆していよう。ただ、製造業に比べ卸売業の売り込みに際しては対面接触が必要とされているということかも知れない。また、コロナ以前から、規模の小さな企業や工場を有している企業ではテレワークが導入されにくいといった予想通りの傾向も確認された。企業の年齢や経営者の年齢が若い企業の方がテレワーク導入に積極的であることもわかった。図には、2021年1月時点におけるテレワーク導入率(%)の上昇幅の推定値を示した。

図

コロナやテレワークが企業のパフォーマンスに与えた影響の分析は既に多く行われているが、企業間ネットワークがテレワークに与えた影響の分析は、少なくとも著者の知る限りでは見当たらない。導入に際し多くの摩擦を伴うテレワークを採用するか否かの判断が、当該企業がコロナというショック以前においてどれだけ他の企業とネットワークを築いてきたかに影響されるという今回の結果は、新しい技術や経営手法の導入判断が、社内の資源だけでなく他社との関係にも左右されることを示唆している。