ノンテクニカルサマリー

投資ファンドと雇用・賃金

執筆者 久保 克行(早稲田大学)/坪野 航大(早稲田大学)
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト

この研究の目的は、投資ファンドが企業の雇用や賃金に与える影響を分析することである。アクティビストファンドやプライベートエクイティのような、いわゆる投資ファンドが日本で活発に活動を開始したのは1990年代後半である。これらの投資ファンドによる企業買収はリターンという観点からは典型的には成功しているということが実証研究では示されている。そこで問題となるのが従業員と投資ファンドの利害対立である。従業員と投資家の利害は一致することも多いが、対立するような状況もないわけではない。例えば、投資ファンドは投資先の従業員を削減したり、賃金を削減したりすることで利益を確保しようとするかもしれない。

このような問題意識から、本研究では投資ファンドによる投資と労働条件の関係を分析している。具体的には、投資ファンドが投資した企業において雇用・賃金にどのような影響があるかを、2007年から2017年の上場企業のデータを使用し、ディファレンス・イン・ディファレンスの手法を用いて分析している。諸外国の先行研究では投資ファンドが雇用・賃金に与える影響は必ずしも安定していない。その一つの理由はターゲットの企業の属性に違いがあるためと考えられる。投資ファンドの投資のターゲットとなる企業はさまざまである。企業の存続のために、ある程度雇用を削減する必要がある企業がある一方で、積極的に従業員を増加させることが望ましい企業もある。先行研究では、これらの点について明示的に分析を行なっていないものが多い。そこで、本研究ではトリプルディファレンスを用いることにより、このことを考慮した分析を行なった。さらに、本研究ではファンドの属性についても、アクティビストかどうか、ファンドの国籍などによって区別した分析を行なった。

本研究で得られた一つの結果は、投資ファンドによって買収された企業は、それ以外の企業と比較して雇用および賃金が減少する傾向にあると言うことである。このことは、図表に示されている。図表にはPost×Investmentの係数が雇用、賃金についてどちらも負で有意であることが示されている。Investmentは投資ファンドによって投資された企業は1を取るダミー変数、Postは時点を示すダミー変数である。この結果は、投資ファンドが従業員数を削減することでリターンを得ようとしていると言う考え方と整合的である。一方で、従業員に与える影響はファンドの属性、投資先の企業の属性によって異なってくることも確認できている。

投資ファンドと雇用・賃金
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