執筆者 | 浦田 秀次郎(ファカルティフェロー)/白 映旻(福山大学) |
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研究プロジェクト | グローバリゼーションと日本経済:企業の対応と世界貿易ガバナンス |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「グローバリゼーションと日本経済:企業の対応と世界貿易ガバナンス」プロジェクト
本稿では、日本の製造企業のグローバルバリューチェーン(GVC)への参加による生産性向上効果(GVC参加による学習効果)の有無を経済産業省企業活動基本調査で収集された企業レベルのデータを用いて統計的に検証した。分析では輸入と輸出を行っている企業をGVC参加企業(以下GVC企業)と見做した。分析対象期間は1994年から2018年であり、分析対象企業は年によりばらつきがあるが、毎年約10000社である。分析は傾向スコア・マッチング(PSM)と差分の差分法(DID)を組み合わせて行った。
初めにGVC不参加企業(以下非GVC企業)の中で、GVC企業になった企業の属性を検討した。その結果、生産性の高い企業がGVC企業になる確率が高いことが明らかになったが、一方、生産性が高い企業の中でもGVCに参加していない企業が多いことも確認された(図参照)。次に、GVCに参加する(非GVC企業がGVC企業になる)ことによる生産性への影響を分析した結果、ほぼすべての推計において正の関係(生産性上昇効果)が認められたが、統計的に有意な関係は全体の約40%であった。これらの結果は、GVC参加は日本企業の生産性を上げる傾向を持つが、その効果については確定的ではないことを示している。但し、GVC参加による生産性向上効果は時間の経過に伴って拡大することが明らかになった。
分析結果からは、いくつかの政策への含意が導き出せる。第一に、企業によるGVC参加においては高生産性の実現が重要であることから、政府は企業や労働者に対して技術力向上を促すような教育や訓練などを提供することが望ましい。また、高度な技術の導入を促進するような支援も検討すべきであろう。第二に、多くの生産性が高い企業がGVCに参加していないこと、さらに、GVCに継続して参加することが生産性向上には重要であることから、企業に対して海外市場の情報提供などによるGVC参加を容易にするような支援が有益である。また、GVC参加や継続にあたっては、安定的かつ開放的な貿易環境が重要であることから、二国間自由貿易協定(FTA)を始めとして包括的・先進的環太平洋パートナーシップ(CPTPP)協定や地域包括的経済連携(RCEP)協定などのFTAにおける約束の実施および規律の遵守、さらには世界貿易体制を担う世界貿易機関(WTO)による自由化、ルール構築および紛争解決などの諸機能の回復へ向けて貢献することが政府に期待されている。