ノンテクニカルサマリー

トランプ大統領の対中国貿易戦争の日本の貿易への影響

執筆者 伊藤 匡(学習院大学)
研究プロジェクト 直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究」プロジェクト

本稿は、トランプ前米国大統領による対中国貿易戦争の日本の貿易への間接的な影響を分析したものである。25%に引き上げられた米国の輸入関税に直面した中国企業は、他の輸出先を模索するであろう。米国と同様の所得水準にあり、製造業における産業構造も似通っていて、且つ近隣諸国である日本への輸出を模索することは十分に考えうる。また、日本への販売を促進するために、価格を下げて日本に輸出することも考えられる。もしそうなれば、日本としては間接的に交易条件の改善に浴することになる。このような潜在的な正の効果の一方で、トランプ関税の対象となった産業に中間財を納入している日本の上流部門産業は中国への販売の減少という負の効果を被るであろう。

本稿では日本の財別国別月別貿易データを用いて上記について分析を行った。図1は、日本の中国からの輸入金額をトランプ関税対象財と非対象財にて比較したものである。月別であるため波はあるものの、どちらにも明らかな減少や増加は見られない。トランプ関税対象財の中国から日本への輸出が増加している様子が伺われないということである。計量分析においてもほとんど変化が見られないことが確認された。また、中国の産業連関表を利用して、日本の上流部門からトランプ関税対象になった中国の下流部門産業への輸出について計量推定分析をしたところ、頑健に輸出額が増えていることが確認された(注1)。これは当初の予想と反対であり、興味深い結果である。

同予想外の結果の原因として考えられるのが、中国におけるトランプ関税対象財の生産が寧ろ増えたということであるが、中国の月別の生産データは入手困難であるため、代替として中国の輸出データを利用して、トランプ関税対象財の中国からの輸出が寧ろ増加したのか否かを分析した。図2は中国の米国向け輸出額とその他の国向け輸出額の推移を示したものである。米国向けが明確に減少している一方で、その他の国向けは若干の増加を示している。計量推定分析においても、トランプ関税対象財が、米国への輸出の減少を凌駕する形で、米国以外の国への輸出を増えていることが確認された(注2)。

図1:日本の中国からの輸入金額の推移-トランプ関税対象財(Target)と非対象財(Non Target)単位:10億円
図1:日本の中国からの輸入金額の推移-トランプ関税対象財(Target)と非対象財(Non Target)単位:10億円
出典:月別財別日本税関データより筆者作成
図2:中国からの輸出金額の推移-米国向け(USA)及びその他の国向け(ROW) 単位:百万米ドル
図2:中国からの輸出金額の推移-米国向け(USA)及びその他の国向け(ROW) 単位:百万米ドル
注:左軸-ROW、右軸-USA
出典:中国月次財別貿易データより筆者作成
脚注
  1. ^ 計量推定分析結果については、当該RIETI Discussion Paperをご参照ください。
  2. ^ 計量推定分析結果については、当該RIETI Discussion Paperをご参照ください。