ノンテクニカルサマリー

女性の労働参加と生産性:税・社会保障制度の役割

執筆者 北尾 早霧(上席研究員)/御子柴 みなも(東京大学)
研究プロジェクト 人口減少下のマクロ経済・社会保障政策:企業・個人・格差のダイナミクス
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人口減少下のマクロ経済・社会保障政策:企業・個人・格差のダイナミクス」プロジェクト

日本では、女性の労働所得が男性に比べて著しく低い。消費生活パネル調査(JPSC)の個票データを用いて、1960年代生まれの女性の労働参加状況を2018年まで追跡し、雇用と賃金の変遷を分析した。図1(a)に示すように、20代半ばには70%を超える労働参加率は30代前半には50%まで低下し、その後緩やかに上昇する。図1(b)が示すように、30代半ばまでの労働参加率の低下は正規雇用者の減少によって、30代以降の上昇は非正規雇用者の増加によって説明される。また、図2が示すように、未婚者あるいは既婚者内での正規雇用者の割合に関しては、年齢による大きな変化はなく、女性全体で見た正規雇用者数の減少は、結婚に伴う雇用形態の変化によって説明される。

図1:女性の労働参加率と正規(Regular)・非正規(Contingent)雇用の内訳(出所:消費生活パネル調査)
図1:女性の労働参加率と正規(Regular)・非正規(Contingent)雇用の内訳(出所:消費生活パネル調査)
図2:未婚(Single)女性と既婚(Married)女性の労働参加(出所:消費生活パネル調査)
図2:未婚(Single)女性と既婚(Married)女性の労働参加(出所:消費生活パネル調査)

非正規雇用者の賃金は正規雇用者を大きく下回り、さらに職務経験を積んでも賃金の上昇は見られない。これらの要素が複合的に男女間賃金格差を形成している。

本論文においては、女性の労働参加と賃金構造を説明する世代重複型モデルを構築する。その上で、財政政策に焦点を当て、配偶者控除、第三号被保険者の社会保険料免除および遺族年金が女性の行動にどのような影響を及ぼしているか分析する。

その結果、いずれの制度も女性の就労意欲を抑制し、賃金水準を低下させることがわかった。3つの政策が全て廃止されていた場合、平均労働参加率は13パーセントポイント、平均賃金は約28%高い水準になるというシミュレーション結果が得られた。

労働参加率が上昇するだけでなく、より多くの女性が非正規ではなく正規雇用を選び、ライフサイクルを通じた人的資本の蓄積によって所得が増加する。税負担は増すが、所得増の効果が上回ることで平均消費水準は上昇し、政府歳入の増加分を還元することにより、厚生も改善することが示された。

持続的な所得水準の上昇には、生産性の上昇が不可欠だ。無所得あるいは低所得の配偶者の生活費を支えるために講じられてきた政策は、低所得者を保護するという本来の役割を果たしておらず、女性の労働参加や生産性と賃金上昇の大きな足枷となっている。