ノンテクニカルサマリー

正社員のワーク・エンゲイジメント

執筆者 久米 功一 (東洋大学)/鶴 光太郎 (ファカルティフェロー)/佐野 晋平 (神戸大学)/安井 健悟 (青山学院大学)
研究プロジェクト AI時代の雇用・教育改革
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「AI時代の雇用・教育改革」プロジェクト

中長期的な人手不足にある日本では、過重労働による働きがいの喪失やメンタルヘルスの悪化が懸念されている。また、仕事と生活の両立ストレスの軽減と生産性向上の観点から、働く時間や場所を柔軟にする多様な働き方が推進されている。こうした労働環境の変化は、労働者に自律的な働き方を求めると同時に、その心理状態に対する関心を高めるものとなっている。

仕事の原動力となるのは、仕事におけるウェルビーイングや前向きな姿勢であり、なかでもワーク・エンゲイジメントが注目されている。ワーク・エンゲイジメントとは、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態をいう。

これらを踏まえて、本研究では、日本の正社員約2千人を対象として、ワーク・エンゲイジメントの先行要因(規定要因)に関する分析を行った。ワーク・エンゲイジメントの先行要因の結果は表の通りであり、そこから考えられる人事・雇用管理施策へのインプリケーションは以下の通りである。

表.ワーク・エンゲイジメントの先行要因(推定結果の一部を抜粋)
表.ワーク・エンゲイジメントの先行要因(推定結果の一部を抜粋)
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(1)個人の資質に対する配慮:外向性、勤勉性、開放性、自尊感情、統制の所在、正の互恵性が高い人ほど、ワーク・エンゲイジメントのスコアが高い。従業員のワーク・エンゲイジメントの向上を目指す場合、個々の従業員の性格特性とワーク・エンゲイジメントの関係を考慮する必要があるだろう 。

(2)スキル形成、人と関わる機会の提供:今よりも高いレベルのスキルを要する仕事や、他者との密接なインタラクションがある仕事(「他人との調整があまりない」の係数が負)ほど、ワーク・エンゲイジメントが高い。他者との調整を行いつつ、成長機会が確保されるような環境が重要である。

(3)労働時間管理:残業があるなど長時間労働はワーク・エンゲイジメントを高める効果がある。しかし、本人意思であっても、ワーカホリックにもとづく長時間労働は健康を損ねるおそれがあるため、ワーク・エンゲイジメントを高める手法としては言うまでもなく適切ではない。

(4)自律的な働き方の実践:「組織のラインに組み込まれている(上司の決裁を仰いでいる)」の係数は負、「自分で仕事のやり方を決めることができた」の係数は正であることから、自律的に判断して仕事を進めることがワーク・エンゲイジメントの向上につながるといえる。

(5)人員の確保と仕事の適切な割り振り:「人員がいつも不足している」「仕事のできる人とできない人の差が大きい」ことは、ワーク・エンゲイジメントと有意に負の関係があった。また、職務特性のうち、正当な評価に代理されるフィードバックの係数は正であった。業務の負荷に対して適正な人員を確保し、仕事の適切な割り振りやフィードバックによって従業員の公正観を満たすことは、ワーク・エンゲイジメントの向上において重要である 。

(6)多様化する働き方の中で相談・助言の機会を確保する:仕事の資源である上司・同僚のサポートのうち、「仕事について相談に乗ってもらったり助言を受けた」「今後の職業人生について会社に相談できた」人ほど、ワーク・エンゲイジメントが高かった。働く場所や時間が柔軟になるほど、相対的にみて仕事上での接点が少なくなることから、相談や助言の機会を意図的に設ける必要があるだろう。