ノンテクニカルサマリー

新型コロナ、ワクチン接種と消費行動

執筆者 森川 正之 (所長・CRO)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.背景

新型コロナの拡大が波状的に続く中、日本の家計消費の動向を見ると、新型コロナ以前の水準と比較して年額換算で15兆円前後低い状態で、財に比べてサービスへの消費支出の減少が顕著である。こうした中、本年夏頃の政府や日本銀行の経済見通しでは、ワクチン接種の進捗とともに日本経済の回復傾向が強まることへの期待が強い。

ワクチン接種の拡大は、おそらく外食、宿泊サービスなどへの支出を増加させる(「リベンジ消費」、「ペントアップ需要」)。しかし、ワクチン接種がマクロ経済の回復にどの程度寄与するのかは不確実性が高い。新型コロナ下で増加した「巣ごもり消費」の減少など、主に消費支出の構成変化にとどまる可能性もあるからである。

2.調査の概要

本稿では、個人に対して行った独自のサーベイに基づき、新型コロナ感染症、ワクチン接種と消費行動の関係について考察する。全体として消費を増やしたいと考えている人はどの程度いるのか、どのような人が消費を拡大意欲を持っているのかについて、観察事実を提示する。この調査は2021年7月上旬に実施したもので、8,909人から回答を得た。本稿に関連する調査事項は、新型コロナの消費への影響、ワクチン接種状況・接種意向、ワクチン接種の消費行動への影響である。

3.結果の要点

(1)新型コロナが終息した後に消費支出を増やす意向を持つ人はかなり多いが、自身のワクチン接種によって消費を拡大するという人はさほど多くない(下図参照)。ワクチン接種に伴うリベンジ消費ないしペントアップ需要は、余暇・娯楽サービスや外食への支出を増やす可能性はあるものの、感染症自体が終息しない限りマクロ的なインパクトは限られる可能性がある。

(2)新型コロナの終息やワクチン接種に伴う消費行動のうち、観測可能な個人特性で説明する部分は小さいが、男性よりも女性、高所得層、昨年GoToキャンペーンを利用した人は、ワクチン接種に伴う消費拡大意欲が比較的強い傾向がある。これらの人は、政策的な刺激策がなくてもリベンジ消費に積極的に行う可能性が高いことを示唆している。

図.消費支出の「増加」を見込む人の割合
図.消費支出の「増加」を見込む人の割合
(注)新型コロナの終息は全回答者の数字(N=8,909人)。ワクチン接種については、接種を「行うつもりない」と回答した人を除く数字(N=7,658人)。設問や計算方法の詳細は本文参照。