ノンテクニカルサマリー

新型コロナウイルス感染症に対応した企業の対面接触削減について:我が国企業におけるデジタル化・グローバル化との関係についての調査結果の概要

執筆者 冨浦 英一 (ファカルティフェロー)/伊藤 萬里 (リサーチアソシエイト)/熊埜御堂 央 (一橋大学)
研究プロジェクト グローバル化、デジタル化、パンデミック下における企業活動に関する実証分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「グローバル化、デジタル化、パンデミック下における企業活動に関する実証分析」プロジェクト

新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」と略称)の拡大により、企業はさまざまな対応を迫られている。なかでも、飛沫感染を抑えるべく対面での接触を減らすことの重要性が強調されているため、企業はオンライン会議の活用、テレワークへの切り替え等の対策を講じており、企業活動や働き方に変容が生じていると考えられる。対面接触は都市や集積をもたらす原動力である一方で、国際貿易を含む遠隔地取引では対面接触をどのように確保したり他の手段に代替したりするかは古くから重要であった。そこで、本稿では、企業の対面接触削減策の導入に絞って独自の調査を行った結果の概要を報告するとともに、コロナ以前における企業のデジタル化・グローバル化との関係について示唆されることについてもふれることとする。

わが国の製造業・卸売業に属する中堅・大企業に調査を行い、6,722社から回答を得た。本調査では、①コロナ以前(2019年12月)、②一度目の緊急事態宣言が発出されていた2020年4・5月、③緊急事態宣言が解除された後の2020年9・10月、④一部の地域に二度目の緊急事態宣言が発出されていた調査回答時点(2021年1月)の4時点について企業の対応を質問した。

主な結果としては、以下のような点が挙げられる。まず、オンライン会議については、ほぼ全く使っていない企業は1割を切るなど普及が進んだことが確認されたが、対面との使い分けも生まれてきているように見える。テレワークについては、二度目の緊急事態宣言が発出されても原則として全員出社する企業が4割を超えるなど、導入に限界があることが窺えた。この他の対面接触削減策としては、ITの活用と不要不急の業務の見直しが、それぞれ半数を超える企業で実施された。他方、本社オフィスの場所を移転して面積を拡張した企業は減った。グローバル・サプライチェーン(国境を越えて広がる供給網)については、見直しを検討している企業が増えており、コロナによる海外渡航制限を理由に挙げた企業が1割と最も多かったが、最近の米中貿易紛争を挙げる企業が増えた一方で、国内の人手不足や中国の賃金高騰といった長期的理由も相変わらず見られた。

こうしたコロナ対応には企業間で顕著な差が見られるが、コロナ以前の企業属性が影響したのではないかと考える。そこで、今回の調査結果から企業を比較したところ、実際にデジタル化・グローバル化の程度に応じた対面接触削減の違いが明らかになった。今年1月時点で、原則全員出社している企業の割合は、自社の業務を通じて生のデータを海外でも常時継続的に収集している企業では3割と比較的少ないが、国内でもデータを常時継続的には収集していない企業では5割に上っている(図1)。企業のデジタル化を経営上の意思決定におけるデータの重視度で測っても、同様の傾向が見られる。また、社内の会議で発言に英語を(も)用いている企業では、原則全員出社とする企業と原則全員テレワークとする企業が2割と肩を並べている(図2、2021年1月時点の数値を参照)。グローバル化を貿易・直接投資の実績で見ても、似たような特徴がある。グローバル化した企業については、サプライチェーンの途絶など脆弱性が問題視されたが、遠隔地・異文化との調整の経験が豊富で業務の標準化・透明化、デジタル化が進んでいて、危機に際しレジリエント(復元力がある)と考えられ、対面接触の削減がスムーズだった可能性がある。ただ、このような比較だけでは、グローバル化というより大企業でテレワークが進んだ可能性を排除できないので、今後、この調査結果を詳細な企業ミクロデータとリンクさせた計量分析を行い、他の企業属性を考慮した上でグローバル化が対面接触削減における企業の差をもたらしたのか更に精査していく。

図1:コロナ以前のデジタル化とコロナ対応テレワーク
(全員出社と回答した企業の比率%)
図1:コロナ以前のデジタル化とコロナ対応テレワーク(全員出社と回答した企業の比率%)
図2:コロナ以前のグローバル化とコロナ対応テレワーク
(全員出社、全員テレワークと回答した企業の比率%)
図2:コロナ以前のグローバル化とコロナ対応テレワーク(全員出社、全員テレワークと回答した企業の比率%)