ノンテクニカルサマリー

企業において発生するデータの管理と活用-質問票調査による実態把握

執筆者 渡部 俊也 (ファカルティフェロー)/平井 祐理 (文部科学省)/吉岡(小林)徹 (一橋大学)/金間 大介 (金沢大学)/立本 博文 (筑波大学)/古谷 真帆 (一般社団法人日本知的財産協会)/永沼 麻奈香 (株式会社日立製作所)
研究プロジェクト データとAI利活用促進をグローバルに展開するための制度とマネジメントに関する研究―グローバルデータサプライチェーンの確立に向けて
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「データとAI利活用促進をグローバルに展開するための制度とマネジメントに関する研究―グローバルデータサプライチェーンの確立に向けて」プロジェクト

筆者らは、2016年〜2018年のRIETIの研究プロジェクト「企業において発生するデータの管理と活用に関する実証研究」において平成29年度「データ利活用に関するアンケート調査」を実施した。今回の研究プロジェクト「データとAI利活用促進をグローバルに展開するための制度とマネジメントに関する研究」においては、前回と同様、日本の企業におけるデータ利活用実態について、前回との変化を把握するのとともに、前回対象としていなかったデータのクロスボーダー取引の実態や、平成30年の不正競争防止法改正において導入された限定提供データの活用実態に関しても調査を行い、分析を行った。あわせてクロスボーダーデータ取引に及ぼす各国の関連デ―タ保護制度及び企業のデータ利活用の実情やデータ越境移転にかかるモデル契約の実情について文献調査を行った。

今回の研究プロジェクトで実施した2020年度「データ利活用に関するアンケート調査」では、上場企業3685社、及び、未上場企業2252社の合計5937社を対象とした。657社からの有効回答を得て、有効回答率は11.1%であった。

上記の平成29年度及び2020年度のアンケート調査を用いて3年間の比較を行ったところ、全体的なデータ利活用の状況としてはこの3年間で大きく進展している傾向は見られなかった。一方で、データ利活用の今後の方針については拡大する見通しと回答した企業の割合は増加しており、データ利活用の裾野が広がった可能性がうかがえた(図表1、図表2)。

他組織と提携してデータ利活用を行う場合については、データ取得プロジェクト(データ利活用を行うことを主として他組織が保持しているデータを受領し提携契約を結んだプロジェクト)やデータ提供プロジェクト(データ利活用を行うことを主として自社で保持しているデータを他組織に提供し提携契約を結んだプロジェクト)があると回答した企業はいずれも2割未満にとどまり、さらに海外の組織と提携するケースはごく一部の企業に限られていることが分かった。しかし、データ取得プロジェクトやデータ提供プロジェクトがあると回答した企業においては、限定提供データ制度を活用していた企業は比較的多いことがうかがえた。

また、本稿では、2020年度のアンケート調査を用いていくつかの回帰分析や産業別分析を試みた。データ利活用の成果に与える影響について回帰分析を行ったところ、データを利活用する組織の能力を表すdata analytics competency(DAC)が成果に対して有意な正の影響があり、中でもデータの質に関する変数の影響が大きいことが分かった。また、DACの効果等について産業毎に比較したところ、DACが高い業界と低い業界が存在することや、DACのデータ利活用成果への効果はサービス業では統計的有意でロバストである一方、製造業では有意ではないこと等が明らかとなった。加えて、企業におけるデータ利活用に係る戦略の策定とその後のデータ利活用の浸透や成果との関係について分析したところ、既存事業あるいは既存顧客を対象とした事業目標の達成に対して、データ利活用の戦略の導入やデータの整備が強く寄与している可能性があることが示唆された。また、データ取得プロジェクト・データ提供プロジェクトがあると回答した企業を対象としてプロジェクトの成功に寄与する要因について分析を行ったところ、データ契約雛形を使いこなすことはプロジェクトの目標達成やデータ取得・提供に固有の不安材料を緩和する効果を持っている可能性があることや、限定提供データ制度を使いこなすことはプロジェクトの目標達成を促す効果を有している可能性があることが示唆された。

また、データの越境移転の沿革や現在の状況、各国の関連データ保護制度、企業のデータ利活用の実情にかかる調査やデータ越境移転にかかるモデル契約についての文献調査からは、各国ともデータ移転を制約する各種制度整備を行っており、クロスボーダーデータ取引には大きな障害となっている一方、データに関するモデル契約を策定する動きや、日本の改正不競法に類似のデータ保護制度の検討も行われていることが分かった。

図表1 データ利活用の今後の方針(2020年)
図表1 データ利活用の今後の方針(2020年)
図表2 データ利活用の今後の方針(2017年)
図表2 データ利活用の今後の方針(2017年)