執筆者 | 深尾 京司 (ファカルティフェロー)/金 榮愨 (専修大学)/権 赫旭 (ファカルティフェロー)/池内 健太 (研究員(政策エコノミスト)) |
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研究プロジェクト | 東アジア産業生産性 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト
資本ストックが増加すれば、労働者がより生産的になり、労働需要の増加と賃金の上昇も期待できる。投資の増加は経済を短期的に好況し、長期的に経済は成長していく。標準的な経済成長理論によれば、長期的には実質GDP成長率と資本ストックの増加率は、長期的な労働供給の増加と(ハロッド中立的な)技術進歩率で規定される、自然成長率に等しくなる。金・権・深尾(2020)では、2000~2015年における日米独仏英の5カ国について、自然成長率と現実の資本ストック増加率を比較している。日本の自然成長率は0.11%で、5カ国中最も低いにもかかわらず、2000~2015年において日本の現実の資本ストック増加率は、この低い自然成長率を更に大きく下回った。一方、他の4カ国では資本ストック増加率が自然成長率を上回っていた。
2000年代はゼロ金利政策、量的緩和、異次元の金融政策の影響により低金利が持続され、また2013年以降は円安により企業収益が著しく改善したにもかかわらず、民間の設備投資は依然として伸び悩んでいる。
日本企業は手元資金の運用先として設備投資の代わりに、研究開発(R&D)、社員を対象にする企業内教育、ソフトウェアなどの無形資産投資、企業の合併買収(M&A)、海外直接投資(FDI)、もしくは企業貯蓄を行う可能性が高い。平成28年度の経済財政白書でも指摘され、以下の図1と2でも明らかなように、日本企業はM&A、FDIを増やしてきた。
本研究では、2008年の世界金融危機以降の日本企業の設備投資行動を投資関数推計によって分析している。分析結果は生産性(全要素生産性、Total Factor Productivity)が高い企業は設備投資を増やすことを示す。投資チャンスがあるにもかかわらず投資を控えるといわれるが、高い生産性によって将来の期待される収益率が高まると企業は投資を行うことを意味する。
また、キャッシュ・フローの増加は設備投資の増加をもたらすことも分かった。企業が予備的貯蓄の動機が強い場合、キャッシュ・フローの増加は投資の増加につながらず、内部留保に回されると思われるが、推計結果ではキャッシュ・フローは投資と正の関係を持ち、これは設備投資に関しては少なからずの企業がいまだに資金制約に直面していることを意味する。
R&Dやソフトウェア、社員の教育訓練など、いわば無形資産に対する企業の投資の増加や、FDI、M&Aなどの経営組織上の投資の増加が設備投資の低迷をもたらしたとの議論もあるが、分析結果によれば、これらの無形資産と組織への投資は設備投資と補完的な関係にあることが判明した。
日本の設備投資を増加させ、持続的な経済成長を回復するためには、設備投資と補完関係がある無形資産への投資(ソフトウェア投資や人的資源への投資)、FDIやM&Aを活発にさせ、また何より生産性を高めることが重要であると思われる。