ノンテクニカルサマリー

第四次産業革命に関連した特許出願と雇用と生産性のダイナミクスの関係性

執筆者 池内 健太 (研究員(政策エコノミスト))
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

近年、産業構造に大きく変化をもたらす「第四次産業革命」として、人工知能(Artificial Intelligence, AI)やIoT(Internet of Things)といった新しいデジタル関連技術の発展とその産業応用に注目が高まっている。一方、国・産業レベルのデータを用いた先行研究では、デジタル化の進展が企業間の生産性格差を拡大し、市場のダイナミクスを低下させるという指摘もある。しかしながら、これらの第四次産業革命に関連した技術の発展が企業の生産性や雇用のダイナミクスにどのような影響をもたらすのか、についての実証研究は最近行われるようになってきたが、データの制約などの理由から未だに発展途上の研究領域である。

特許庁による日本の特許データを用いた先行研究によれば、AI関連発明の出願件数は第三次AIブームの影響を受けて2014年以降急増し、その主役はニューラルネットワークを含む機械学習技術であり、中でも深層学習に関する発明がある。また、AIの適用先については画像処理や情報検索分野の出願件数が特に多くあり、伸び率が依然として高い制御・ロボティクス関連分野のほか、医学診断の分野も高い伸び率が認められて、幅広い領域での応用が進んでいる傾向がみられている。

本研究では、第四次産業革命に関連した技術であるAIやIoT関連の特許出願動向と市場ダイナミクスとの関係性について日本のデータを用いて分析を行った。特許データと合わせて経済産業省の「企業活動基本調査」および「工業統計調査」ならびに総務省の「事業所・企業統計調査」、「経済センサス‐基礎調査」および「経済センサス‐活動調査」を用いて企業レベルのパネルデータを構築し、AIやIoT関連の特許出願が事業所・企業の生産性上昇と雇用成長にどのように関わっているかを検証し、政策的な含意について検討した。

なお、「経済産業省企業活動基本調査」では主に中堅企業と大企業を中心とした分析を行ったほか、「工業統計調査」および「経済センサス‐活動調査(製造業)」を用いて中小企業を含めた長期の製造業の分析、「事業所・企業統計調査」および「経済センサス-基礎調査(全産業)」と「経済センサス-活動調査(全産業)」を用いて中小企業を含めた全産業の雇用の動向の分析、「経済センサス-活動調査(全産業)」を用いて全産業の中小企業を含めた生産性の動向の分析をそれぞれ行った。また、本研究ではOECD/WPIAのDynEmp/MultiProdプロジェクトで開発された分析プログラムを用いることによって国際比較が可能な形で分析を行った。

本研究の主な分析結果を表 1にまとめている。AI関連特許出願については労働生産性に寄与するのは製造業の大企業に限定されている一方、非製造業の大企業や製造業と非製造業(情報サービスを除く)の中小企業の雇用成長を高める傾向が示唆されている。他方、IoT関連の特許出願は製造業の中小企業の労働生産性の上昇と非製造業(情報サービスを除く)の大企業および中小企業の雇用成長に寄与する傾向がみられた。また、AI関連技術の発展は生産性の格差を拡大する効果を持つこともみられた。

表1 主な分析結果
表1 主な分析結果

これらの分析の結果はAI・IoTといった第四次産業革命に関連した技術の発展が企業の生産性と雇用のダイナミクスと関連している可能性を示している。特にAI関連技術の開発は中堅・大企業に恩恵をもたらしているが、中小企業への恩恵は限定的である。これらの結果は、第四次産業革命に関連した技術の発展によって、中小企業の成長支援政策や格差拡大の是正政策の重要性が高まる可能性を示している。