ノンテクニカルサマリー

進学校への入学はゴールかスタートか? 学校における相対順位が成績と進学先大学に与える影響

執筆者 五十棲 浩二(慶応大学)/伊藤 寛武(慶應義塾大学SFC研究所)/中室 牧子(慶応大学)/山口 慎太郎(東京大学)
研究プロジェクト 日本におけるエビデンスに基づく政策形成の定着
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「日本におけるエビデンスに基づく政策形成の定着」プロジェクト

自らの子どもを、高いレベルの学校に入学させることを望む保護者は多い。この理由の1つとして、高いレベルの学校で学べば、優秀な同級生に囲まれることでポジティブな影響を受けることを期待していることが考えられる。しかし、高いレベルの学校で学ぶことによって生徒が受けるピア効果は、ポジティブなピア効果のみとは限らない。欧米において行われた研究では、集団内での成績順位が低い場合に、その後の学力やキャリア選択、さらには賃金にまでネガティブな影響があることが報告されている。高いレベルの学校で学ぶということは、優秀な同級生に囲まれ自らの順位は相対的に低くなる可能性が高いため、必ずしもポジティブな影響のみをもたらすわけではないということになる。

本研究は、わが国においてトップレベルの学力をもつ中等教育学校のデータを用いて、相対順位がその後の学力や、大学進学先のレベルに及ぼす影響を検証した。学校に入学すると生徒はクラスに配属されることとなるが、クラスごとに生徒の成績分布はそれぞれ異なる。このため、入学直後の試験において、同じ成績をとっても配属されたクラスによってクラス内の順位に一定程度の変動がある。例えば、A組に配属された生徒はクラス内の順位が10位であったとしても、同じ点数の生徒が仮にB組に配属されていれば15位となる、ということが起きる。このように、所属クラスが異なることで偶然生じる順位の変動が、その後の学業達成にどのような影響を及ぼすのだろうか。

検証の結果、中学校入学直後の順位が高いことが、その後6年間にわたって成績にポジティブな影響を及ぼすこと、より競争的な大学に進学する可能性を高めることが示された。具体的には、中学1年の最初の試験でクラス順位が1SD上昇することは、高校1年時点での成績を0.17SD引き上げる効果を持つ。また、クラス順位が約10%(45人のクラスであれば4-5位)上昇すれば、いわゆる名門大学に合格・進学する可能性が2パーセントポイント上昇するという結果となった。これらの結果から、一般によく言われることではあるが、レベルの高い学校に合格することはゴールとして捉えるべきではなく、学校生活において良いスタートを切ることの重要性が示唆される。

今回の推定結果は、入学直後の試験で順位が高いほどに将来の成績が上昇し、逆に順位が低いほどに将来の成績が低くなるということを示す。これは、最初の試験の順位がその後の学校生活において固定化しやすいことになる。最初の試験で下位になると、その後下位から抜けだすことなく、学ぶ意欲が持ちにくくなってしまう生徒が存在することが多くの学校で指摘されているが、順位が成績に及ぼす影響は、このような生徒が生まれることを説明するものである可能性がある。実際、データで見ると、最初の試験で上位10%に入った生徒は高校1年時で45%もの生徒が上位10%にとどまり、下位10%に入った生徒は37%の生徒が下位10%にとどまっている。

本研究とは別に、筆者らが行った埼玉県のデータを用いた順位の研究において、学校内の相対順位が自己効力感に影響を及ぼすことが示されている。高い順位は自己効力感の向上、逆に低い順位は自己効力感の低下をもたらす。低い順位であることで自己効力感が低下することで、成績も低下してしまい、結果として低位のまま留まってしまうということが起きているかもしれない。

特に進学校に入学する生徒は、学校の枠を越えて考えれば高い能力を有する生徒である。しかし、集団においては、必ず順位が低い生徒は生まれてしまう。低い順位であることで自己効力感を低めてしまい、本来の高い潜在的能力を十分に生かせなくなることは避けることが望ましい。先行研究では、成績をフィードバックする際に、スコアに加えて、学力の向上の程度を一緒にフィードバックすることで、高い順位のポジティブな影響を維持しながら、成績下位の生徒の意欲を高めることができることが報告されている。このように、成績のフィードバックの仕方によって順位が学習意欲や自己効力感に負の影響を及ぼすことを緩和できる可能性があり、今後の研究の進展が期待される。

表:入学直後の順位が成績・大学合格に与える影響
表:入学直後の順位が成績・大学合格に与える影響
標準誤差はコホートレベルでのクラスター標準誤差を用いた。* p < 0.05, ** p < 0.01, *** p < 0.001
上位大学は、東京大学、京都大学、東京医科歯科大学・千葉大学・横浜市立大学の医学部とした。