ノンテクニカルサマリー

中学校の技術・家庭の男女共修化の長期的影響

執筆者 原 ひろみ (日本女子大学)/Núria RODRÍGUEZ-PLANAS (City University of New York, Queens College)
研究プロジェクト 日本の労働市場に関する実証研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「日本の労働市場に関する実証研究」プロジェクト

家計は、家計生産と市場労働をその構成員で分担しながら、生活を営んでいる。男性が主に市場労働を、女性が主に家計生産を担当するという伝統的な性別役割分担が長い間主流であったが、働く女性が増えた現在でも、妻がより多くの家計生産を分担している家計は少なくない。家計生産を多く分担すれば、それだけ市場労働に割ける時間や労力は少なくなるので、労働市場で成果をあげづらくなる。よって、女性が労働市場でも成果をあげられる環境を整えるためには、家計内での役割分担にも目を向ける必要がある。本研究では、中学の技術・家庭の男女共修化が家計内での夫婦の役割分担に影響を与えたことを明らかにした。

中学の技術・家庭という科目は、1990年まで男女別学であった。1989年の学習指導要領改訂によって男女共修とされ、新学習指導要領への移行期間であった1990年度から男女共修となった。つまり、1977年度以降に生まれたコーホートが男女共修世代で、それ以前に生まれたコーホートは男女別学世代となる。

図1は、男性の週末の家計生産時間の変化を表している。X軸の"0"は1977年度生まれコーホートを表し、X軸の数字は1977年度から何年離れた年に生まれたコーホートであるかを表している。よって、"-3"は1974年度生まれを、"3"は1980年度生まれを表す。使用データは2016年に実施された「社会生活基本調査」であるので、1977年度生まれの人は39歳である。1977年度生まれ以降が男女共修世代であるから、"0"は別学世代と共修世代の境目、すなわち閾値である。図1では、この閾値で"ジャンプ"、つまり非連続な家計生産時間の増加が観察される。これは、男女共修化によって男性の家計生産時間が増えたという政策介入の因果効果を示している。

図1 男性の家計生産時間(週末)
データ:総務省統計局『社会生活基本調査(2016年)』。図2と図3も同じ。
注:X軸の"0"は1977年度生まれコーホートを表し、X軸の数字は1977年度から何年離れた年に生まれたコーホートであるかを表している。"-3"は1974年度生まれを、"3"は1980年度生まれを表す。"0~3"は男女共修世代を、"-3~-1"は男女別学世代である。点は各コーホートの平均値を、点を通る線は95%信頼区間を表し、グラフは線形モデルで推定したものである。図2~図4も同じ。

図2と図3は、女性の働き方への影響を表したグラフである。図1同様、閾値でジャンプが観察され、正社員で働く女性の割合が非連続に増え、逆に非正規で働く女性の割合が非連続に減っていることがわかる。

図2 正社員割合(女性)
図3 非正社員割合(女性)

以上から、技術・家庭の男女共修によって、人々の行動がジェンダー中立的になったと考えられる。この結果を、世代的な変化、すなわち若い世代の男性はより家事をするようになり、女性は市場で働くようになったというトレンドを反映したものではないかと受け止める人もいるであろう。実際に、直線が右上がりになっていることがこのトレンドを捕捉している。しかし、本研究では、回帰不連続デザイン (RDD) という分析フレームワークを用いることで、閾値における不連続な変化によって因果関係を捉えている。

このようなことが観察される背後には、単なる家事関連のスキルの習得によるものではなく、共修化によって伝統的な性別役割分担意識に変化がもたらされたことも一因であると推測できる。図4は伝統的な性別役割分担に反対の女性の割合の変化を表したもので、これも閾値で非連続な増加が観察される。家庭科に関する分野が女子のみ必修である場合、家事に関することは女性の役割と女子は受け止めるだろうし、男子もそうであろう。しかし、男女共修になれば、家事は男女両方の役割であると受け止めるようになるであろう。その結果、男女共修世代の男性は家事時間を増やし、女性は労働市場でより積極的に働くようになったのではないかと考えられる。本研究の分析結果から、学校教育におけるジェンダー平等は、その後の人生での意思決定・行動選択にも影響を与えると考えられことから、その重要性が示唆される。

図4 伝統的な性別役割分担に反対の人の割合(女性)
データ:「夫婦の役割と意識に関する調査」