ノンテクニカルサマリー

株式非公開化と事後的な企業行動:マネジメント・バイアウトを対象とした実証分析

執筆者 河西 卓弥 (熊本県立大学)
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「企業統治分析のフロンティア」プロジェクト

本稿は、株式市場からの自発的な退出が、事後的な企業行動に与える影響を実証的に検証している。経営者による自社の買収であるマネジメント・バイアウト(MBO)の中でも、バイアウト時に株式の非公開化を伴う非公開化型MBOを対象に分析を行っている。株式非公開化の理由として、市場からの短期的な成果への圧力から解放され、長期的な成長戦略を取りやすくするためと言われることが多い。それでは、株式の非公開化により、抜本的なリストラクチャリングや長期的行動の代表である研究開発などが促進されているのであろうか。

MBOは、アメリカでは80年代から行われ、日本では90年代末から見られるようになった。非公開化型MBOに関しては2001年に最初のケースが見られてから、2005年より年10件程度で推移し、2012年以降減少傾向が見られたが、2020年には再び10件を超える非公開化型MBOが見られた(図を参照)。有名な事例としては、2013年の米国のデル、日本では2005年のワールド、2006年のすかいらーくのMBOがある。

図:日本における非公開化型MBO
図:日本における非公開化型MBO

MBOによる株式の非公開化が企業価値に与える影響としては、ポジティブな効果とネガティブな効果の両方が考えられる。一般的に言われているように、非公開化により短期的な成果に対する圧力から解放され、経営の自由度が高まり、より長期的な成長を志向するようになるのであれば、リストラやイノベーション活動が促進され企業価値が高まることが予想される。他方、市場、特に機関投資家が適切なモニタリングを行っていたのであれば、非公開化により企業価値を高める長期的な視野に立った活動が停滞することが予想される。

分析では、製造業もしくは情報・通信業に属する非公開化型MBO実施企業39社とそれら企業に近い属性を持った企業をマッチングし、非公開化前後で、イノベーション活動に関する研究開発費や特許件数、リストラに関する従業員数、給与総額、総資産、子会社・関連会社数、パフォーマンスに関するROAにどのような変化が見られたのかを確認した。

分析の結果、MBOにより従業員数、給与総額は有意に減少したことが明らかとなった。MBOの発表とともに希望退職を募ったケースがあることも確認されており、そのような事例とも整合的な結果が見られた。通常MBOに伴い負債が増加するが、そのような負債の増加による倒産リスクの高まりが、従業員側の交渉力を弱めた結果といえるかもしれない。そのほか、総資産の減少が確認されたが、子会社・関連会社数に変化は見られなかった。また、資産の削減に伴う総資産回転率の上昇によるものとみられるROAの上昇が見られた。しかし、研究開発費、特許数に変化は見られず、株式非公開化によるイノベーション活動への影響は見られなかった。

非公開化型MBOでは、バイアウト・ファンドが関与するケースと関与しないケースが共に存在する。両者の比較を行うことで、バイアウト・ファンドの機能についても検証を行った。バイアウト・ファンドは、ブロックシェアホルダーとしてモニタリングを行うことや経営改革のサポートを通じて、企業価値の向上に貢献する可能性がある。他方、ファンドの運用期間は5年程度と言われ、ファイナンシャルバイヤーとして短期的な収益を目指す可能性もある。

分析の結果、ファンド関与案件では、非関与案件で見られた総資産や子会社・関連会社数の減少が見られなかった。胥(2011)は、事例研究により、キトーのMBOにおけるプライベートエクイティファンドであるカーライルの役割を明らかにしている。それによると、キトーはMBO後にカーライルのアドバイスに従い、本業と関連の薄い子会社の閉鎖や低収益性事業の売却と同時に海外子会社への出資拡大や新規設立により事業の選択と集中を行った。本稿の結果は、そのような事例と整合的なものとなっている。

最後に期間を分割して分析を行った。2007年9月に経済産業省がMBOに関する指針を公表した。指針は、企業価値を高めるMBOを促進し、MBOの実施において既存株主の利益が守られるよう作成された。また、2008年9月にレックス・ホールディングス訴訟に対する東京高裁の判決が出された。この訴訟では、MBO 実施時の株式の取得価格の妥当性が争われ、判決ではレックスHDが提示した買付価格1株23万円を大きく上回る33万6,966円が妥当と判断された。これら出来事がMBOの目的を変化させた可能性があるため、2007年前後でサンプルを分割して分析を行った。

その結果、両期間で雇用や給与の削減が見られ、2007年より前では、利益率の改善、2007年以降では総資産の減少が確認された。ただし、非公開化によるイノベーション活動への影響は一貫して見られなかった。指針の公表や買取価格に対する判決の後に、よりリストラが行われるようになった可能性があるが、2008年にはリーマンショックによる景気後退も起きているため、残念ながら、指針や判決により非公開化型MBOの目的が変化したことによるものなのか、マクロ経済状況への対応によるものか、期間による結果の違いの理由を特定することはできない。