ノンテクニカルサマリー

日本人駐在員は海外子会社の業績に影響を与えるか? 三波パネルデータに基づく分析

執筆者 Jesper EDMAN (早稲田大学)/竹内 理樹 (Naveen Jindal School of Management, University of Texas at Dallas)
研究プロジェクト 人事施策の生産性効果と雇用システムの変容
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人事施策の生産性効果と雇用システムの変容」プロジェクト

多国籍企業にとって重要な課題の1つは、海外子会社の経営を本社駐在員に任すか、現地人財を雇用するかである。いくつかの研究が本社駐在員と現地人財の間のトレードオフが子会社の業績に与える影響を調べているが、既存研究は単なる人数しかみておらず、駐在員の効果が彼らの組織的役割と地位に応じて大幅に異なることを認識していない。例えば、本社出身のCEOは、本社出身の人事マネジャー、技術スタッフ、総務スタッフなどと比較して、明らかに異なる影響を持つ。本論文の目的は、さまざまな役割を持った駐在員の存在が子会社の生産性と存続にどのような影響を与えるかを探究することである。経済産業省の「海外事業活動基礎調査」と東洋経済の「海外進出企業総覧」を組み合わせ、駐在員の組織的な役割とポジション(上級管理職、正社員、技術スタッフ、あるいは日本人の社長、人事マネジャー、生産マネジャーの間の違い)を区別した形で、海外子会社の生産性と継続性に与える影響を調査する。さらに、きめ細かいサーベイ回答を用いることで、異なる役割の駐在員配置と子会社売却の確率や売却理由の関係についても検証を行う。また、これらの影響を緩和する、経済的・社会的・文化的要因を含むさまざまな国ごとの状況についても調査する。私たちの調査結果は、日本人駐在員がいつ、どこで、どのように海外子会社の業績と存続に影響を与えるかについて重要かつ詳細な知見を提供する。

分析の結果では職員の役割、業績指標の特定のタイプ、および国の状況によって影響が大きく異なることを示している。社長や営業担当レベルの駐在員は日本と経済や技術面で大きく異なっている国で売り上げに大きな影響を与える。また、組織内での一般駐在員マネジャーは海外子会社の生産性を高める影響をもたらす。ただし、この影響はナショナリズムが強い国では反発し、生産性の低下に直面する可能性があることを示唆している。以下の図表ではこの関係を示す。

本論文の結果は政策面でいくつかの意味がある。第一に、駐在員のマネジャーは海外子会社の生産性と競争力を高めるために不可欠であるため、政策立案者は、企業が重要なスタッフをできるだけスムーズかつ迅速に海外に移転できるようにする必要がある。具体的な支援形態には、ビザ申請プロセスおよび住所変更の合理化、海外勤務による税金および社会保障の支払いの複雑さの最小化、同伴家族へのさまざまな形態の移動支援の提供が含まれる。

また、調査結果はナショナリスト感情の潜在的な悪影響に対処し、緩和する必要があることも示唆している。ナショナリズムは子会社の生産性、特に駐在員の有効性を制限するため、有害である。政策としては、例えば日本の外交官が地元の日系ビジネスコミュニティのメンバーと積極的に協力し、日本のイメージと日本の企業の正当性を慎重に管理することである。ナショナリストや反グローバリゼーションの感情が高い国でも、日本に対して比較的ポジティブなイメージを確保することができれば、他国の競合他社よりも日本企業にアドバンテージを与えることができる。

図表1
図表1