ノンテクニカルサマリー

自然災害に対する海外直接投資の強靭性:産業連関の役割

執筆者 加藤 隼人 (大阪大学)/大久保 敏弘 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト グローバル経済が直面する政策課題の分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「グローバル経済が直面する政策課題の分析」プロジェクト

本研究の目的と貢献

多国籍企業は平時ばかりではなく非常時においても受け入れ国の経済、とりわけ途上国経済に対して重要な役割を果たす。本研究は、途上国に立地する多国籍企業を念頭においた簡潔なモデルを開発し、自然災害のような大規模なショックが生じた場合に、多国籍企業が被災国にとどまる(=強靭性を示す)条件を明らかにした。本研究が果たす学術的貢献は、これまで理論的に分析されてこなかった災害が海外直接投資に与える影響を明らかにした点、既存の実証研究の結果を理解し解釈する手助けをする点にある。

分析結果

災害が被災国に立地する多国籍企業に与える影響は、以下の図にまとめられる。災害が生じる前は、受け入れ国は点\(S_1\)の状況にあるとする(図の(a))。この点では多国籍企業と、それに対して中間財を供給する地元企業が共存している。災害が生じ地元企業が大きな損害を受けたとすると、地元企業数が減少することで中間財価格が高騰し、調達コストの上昇を嫌がる多国籍企業は撤退をはじめる。すなわち、点\(S_1\)は安定的な状態ではなくなり、受け入れ国の経済は点\(S_2\)に向かって移行する(図の(b))。最終的には、すべての多国籍企業が撤退した点\(S_2'\)が安定的な状態になる(図の(c))。

図に示した状況が生じにくくなるための条件、すなわち多国籍企業が被災国から撤退しにくくなるための条件は何だろうか。本研究では、地元中間財が多国籍企業の生産にとって重要であるほど、また輸入中間財の調達コストが低いほど、強靭性が高まることを示した。

図.災害の影響
図.災害の影響

政策的含意

多国籍企業を被災国にとどまらせるためには、何よりもまず地元・多国籍企業に与える損害を最小にすることが第一である。その次に有効な災害対策として本研究が示唆するのは、多国籍企業と地元産業との連関を促進する政策(例:一定割合の部品などの現地調達の義務付け)や輸入中間財の調達コストを下げる政策(例:関税の削減)である。