ノンテクニカルサマリー

COVID-19についてのソシオ・ライフサイエンス調査

執筆者 広田 茂 (ファカルティフェロー)/瀬藤 和也 (京都大学)/要藤 正任 (京都大学)/矢野 誠 (理事長)
研究プロジェクト 文理融合による新しい生命・社会科学構築にむけた実験的試み
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「文理融合による新しい生命・社会科学構築にむけた実験的試み」プロジェクト

経済産業研究所と京都大学大学院医学研究科は、アンケート調査と高い精度の抗体検査から成る「COVID-19についてのソシオ・ライフサイエンス調査」を開始しており、本稿ではその概要と質問票を紹介している。

現下、世界はCOVID-19との厳しい戦いを強いられている。感染拡大を抑制するための最も重要な方策の1つが人々の行動変容であることは言を俟たない。COVID-19はもちろん、これからも現れるであろう未知のウィルスへの対応も含めた今後の取組みを真に効果的なものとしていくためには、これまでのCOVID-19との対峙の経験をしっかりとデータ化し、分析した上で、何が有効で何がそうでなかったかを明らかにすることが不可欠である。しかし、現状では感染状況の把握が主としてPCR検査によりなされていることから、見た目には無症状であった感染者(不顕性感染者)が抜け落ちているとともに、人々の行動変容の実態が十分に把握されていない。また、人々がどのような場合に行動を変容させるのかといったメカニズムや傾向性についても解明が進んでいない。

このため本研究では、質問票調査を行い、COVID-19の流行以降、緊急事態宣言の発令や感染状況に応じた人々の行動変容の実態を把握する。同時に、仏パスツール研究所が開発した極めて高い感度と特異度を持つ抗体検査を行い、不顕性感染者を含めた感染の実情を把握する。

調査対象は2つのグループで、1つは京都大学が2007年から滋賀県長浜市で構築してきた「ながはま0次予防コホート事業」(ながはまコホート)の参加者からの3,000人程度のグループ、もう1つは京都大学医学部附属病院の医療従事者1,000人程度のグループである。「ながはまコホート」では生命科学面・社会科学面にわたる多様な情報が既に蓄積されており、感染者の行動様式や嗜好なども含む統合的解析が可能なわが国で唯一のフィールドである。また、京都大学病院は、専門知識を持った医療従事者の集団であり、一般市民の行動様式との対照が可能となる。

本調査で得られるデータは、さまざまな問題の解明に資すると考えられるが、想定している主な目的は以下の通りである。第一に、パンデミックに直面したときの人々の行動変容を決定する要因の特定である。行動変容に関わるものとしては健康状態、教育や年齢、社会的圧力や説得に対する感受性などさまざまな特性が考えられ、それらとの相関の大きさを検証する。第二に、COVID-19の発生が日本人の価値観に与えた影響の評価である。価値観を、個人の幸福度とさまざまな個人の特性との機能的関係と定義した上で、その関係がどのように変化したかを確認する。第三に、不顕性感染を含めたCOVID-19感染と、行動変容や個人的特性の関係の解明である。

調査票の内容は、主に従属変数として用いることが想定されるものとして、まず人々の行動変容の状況が挙げられる。一般的な外出、運動、友人との飲み会・会食、帰省・実家訪問、カラオケやライブハウスなど繁華街の施設利用などの行動の頻度が時期ごとにどう変わったかを尋ねている。また、各活動について「マスクを着けて行った」「混んでいない時間を選んだ」など行動をどのように変容させたかを選ばせている。また、人々の厚生に関するものとして、幸福度、生活満足度、主観的健康度などを尋ねている。

説明変数としては、年齢、性別、家族構成など回答者の基本属性のほか、仕事や経済状況などを問うている。仕事については、小売店や飲食店の従業員など、顧客と直接接する必要のある仕事かどうかも尋ねている。また、在宅勤務や時差通勤の状況についても設問している。リスク態度を定量化するために、降水確率がどの程度のときに傘を持って外出するかを尋ねている。また、スーパーのレジ待ちでソーシャル・ディスタンスを取らない人をどの程度不快に思うかなど、他者の行動に対する態度も訊いている。加えて、一般的な気質やソーシャル・キャピタルに関する質問として、他者への一般的な信頼感や、隣人・親戚・友人・職場の同僚とのネットワークなどに関する質問のほか、新しい習慣を始めることにためらいがあるかどうかなどを尋ねている。 巻末に質問票の全体を付している。