ノンテクニカルサマリー

中国への直接投資による日本企業の国内活動への影響

執筆者 大久保 敏弘 (慶應義塾大学)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

中国では過去20年ほど、対内直接投資促進のため市場改革を行ってきている。対内直接投資政策では産業や品目ごとに奨励、制限、禁止とに分けて、投資を調整・規制している。政策の狙いは国内の雇用促進や技術移転の促進などが考えられ、特に奨励分野の多くの産業・品目では最先端の技術で現地生産することを求めている。ハイテク、科学、環境といった分野での高い技術をもつ外国企業の投資促進に力をいれており、中国は先進国を巻き込んだイノベーションの促進を狙っているようである。

本論文では日本の中国に対する直接投資が、どのように日本国内の親企業に影響を及ぼすかを検証した。下図は企業特性の平均値を見たもので、中国への直接投資をした日本企業(青色)と、していない日本企業(オレンジ)との比較を時系列で示した。企業規模が大きく生産性が高い企業が直接投資をする傾向にあることが分かる。また、時系列的には中国への投資をしている企業の平均的な規模(全従業者数、製造労働者数、本社雇用数、工場数など)は小さくなりつつあることが分かる。一方、売上や一人当たり売上は増加している。

さらに推計の結果、中国に直接投資をすることにより、生産性、賃金、雇用が増加することが分かった。具体的には本社の従業員数や製造部門の従業員数も増加するし、工場数も増える。例えば、中国に投資をすることで2%ほど全従業員数や製造部門の従業員は増えることが分かった。一方、R&Dや製品数の増加は有意ではなかった。このように中国への直接投資により、日本国内の生産や雇用も増加することが分かった。一方、日本国内での研究開発投資が増大したり、新規に製品は増えるといった技術面での影響は限定的なようである。

日本経済の中国への依存は大きい。中国への直接投資により、日本国内の生産は減少し産業空洞化につながる、オフショアが進むといった懸念が長らくあるが、本論文の結果によるとこのような現象は顕著ではなく、むしろ、中国への直接投資を通じて中間財の生産や最終工程の生産の増加により、日本国内の生産や雇用も増加することが分かった。このようにWin-Winの関係にあるため、中国との戦略的な互恵関係を模索し、強化していく必要がありそうだ。

図:対中国FDI企業と他の企業との比較
図:対中国FDI企業と他の企業との比較
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