ノンテクニカルサマリー

日本における事業所の規模と労働構成及び大卒賃金格差

執筆者 池内 健太 (研究員(政策エコノミスト))/深尾 京司 (ファカルティフェロー)/Cristiano PERUGINI (ペルージャ大学 / IZA労働経済研究所)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

本研究は、日本の労働市場における事業所の異質性と賃金格差の関係性に注目し、特に学歴に基づく賃金の不平等の側面に注目して分析を行った。国際的には一般的に、高学歴と低学歴の労働者の間での賃金格差が近年拡大していると指摘されている。しかしながら、日本においては例外的に大卒と高卒との賃金格差が長期にわたって安定している(図1)。

図1 学歴間賃金格差の推移
図1 学歴間賃金格差の推移
出所:賃金構造基本統計調査に基づき筆者作成

本研究では2005年から2018年までの賃金構造基本統計調査の調査票情報と用いて、企業内の学歴による賃金の不平等の決定要因を分析する。本研究の主な分析結果は、観察可能なすべての個人属性や職種特性をコントロールした上で、事業所の規模と正規社員の割合が増えると、大卒と高卒との賃金格差が拡大する傾向があることを示している(表1)。これらの分析結果は、大規模な事業所やより長期的な雇用契約を用いている事業所は、中程度の教育を受けた労働者と比較して、生得的な能力や受けた教育の質、より良い職業倫理、強い動機といった観察できない特性を備えた高学歴の労働者を市場平均以上の賃金プレミアムを支払って雇用する能力とそのインセンティブを有している可能性を示唆している。また、規模の大きい事業所は、複雑で競争の激しい環境での経営に不可欠なより優れた高学歴の従業員を引き付けることを可能にするような組織構造と報酬・採用ポリシーを持っていると考えられる。一方、正規社員の割合が高い事業所は、事業所特有の知識の蓄積を必要とし、企業の成功にとって高等教育を受けた能力の高い労働者を雇用することが不可欠となるような生産性を高い水準で維持・向上することが求められる競争状況に直面している可能性を示唆している。

表1 事業所内の大卒と高卒の平均賃金格差の決定要因に関する分析結果
表1 事業所内の大卒と高卒の平均賃金格差の決定要因に関する分析結果
* p < 0.1, ** p < 0.05, *** p < 0.01