ノンテクニカルサマリー

複数の地域でのコロナ対策のロックダウンによる経済的影響はサプライチェーンを通じて相互に作用を及ぼすか?

執筆者 井上 寛康 (兵庫県立大学)/村瀬 洋介 (理化学研究所)/戸堂 康之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 経済・社会ネットワークとグローバル化の関係に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「経済・社会ネットワークとグローバル化の関係に関する研究」プロジェクト

新型コロナウイルスの感染拡大を緩和するために、多くの都市や地域がロックダウン(都市封鎖)され、生産活動の縮小を余儀なくされた。オクスフォード大学の調査(https://www.bsg.ox.ac.uk/research/research-projects/coronavirus-government-response-tracker)によると、2020年4~5月には150カ国以上で特定業種での職場の強制的な閉鎖を伴うロックダウンが実施された。その後、多くの国でロックダウンは緩和ないしは解除されたが、2020年12月現在、世界的にコロナの第2波、第3波が襲来するに従い、再び多くの国でロックダウンが行われるようになっている。

ロックダウンに伴う生産活動の縮小によって、ロックダウンされた地域は経済的に大きな影響を受ける。しかも、生産活動の縮小の影響はサプライチェーンの途絶を通して、ロックダウンされた地域外に波及していく。

例えば、スウェーデンは厳格なロックダウンをしなかったことで、10万人当たりのコロナによる死亡者数は近隣のフィンランドやノルウェーとくらべて突出して多い。しかし、スウェーデンの2020年第2四半期のGDPの減少率(前年同期比)は約7%と、フィンランド(約6%)、ノルウェー(約5%)よりもむしろ高い。これは、経済的に強くつながった周辺国がロックダウンしている影響で、ロックダウンをしていないスウェーデンも経済的な損失を被ったからだと考えられる。

この研究は、このようなサプライチェーンを通じたロックダウンの経済的影響の波及効果を、特に多地域のロックダウン戦略の相互作用について、数理モデルに実際の日本企業約160万社のサプライチェーンのデータを組み合わせてシミュレーションすることで定量的に分析したものである。

2020年4月に日本で緊急事態宣言(強制力の弱いロックダウンとみなす)が出された時には、図1の赤色で示された7都府県のみが対象であった。しかし、色の濃い地域ほど生産減少の推計値が多いことを表す図2によると、緊急事態宣言が出されていない多くの市町村で生産が大幅に減少したことが示唆されている。

さらにこの研究では、全国がロックダウンしている中、ある都道府県がロックダウンを解除したとき、その経済がどの程度回復するかを分析した。その結果、ロックダウンを解除した地域がロックダウン続行中の地域とサプライチェーンで密接につながっている、もしくはロックダウン中のサプライヤーを地域内の企業で代替できないと、経済の回復度合いが小さくなることが分かった。

また、2つの地域が同時にロックダウンを解除する場合には、それらが密接につながっていたり、ロックダウンされている他地域のサプライヤーを相手地域の企業で代替することができたりする場合には、その経済の回復度合いが大きくなる。

つまり、ある地域におけるロックダウンの解除による経済的利益は、その地域がロックダウンしている地域およびロックダウンしていない地域とどのようにつながっているかに大きく依存するのだ。したがって、国や地域はロックダウン戦略を決定するにあたって、他国や他地域の戦略をも考慮に入れる必要がある。

例えば前述のスウェーデンのケースでは、近隣諸国がロックダウンしていることを踏まえれば、いずれにせよ生産が大きく減少してしまうことは避けられなかった。それを考えれば、人的な損失を防ぐためにはスウェーデンも厳格にロックダウンしたほうがよかったのかもしれない。

とは言え、この研究の結果はロックダウンをすることを必ずしも奨励するものではない。日本のケースでは、多くの地域が東京と経済的に強くつながっているがために、東京がロックダウンをするかしないかによって、他地域のロックダウンによる経済的影響は大きく変わってくる。東京がロックダウンしている時には、他地域はロックダウンを解除してもそれほど大きな経済的な利益は得られないが、逆に東京がロックダウンをしていないのであれば、他地域はロックダウンを回避もしくは解除することで大きな経済的な恩恵を得ることになる。

したがって重要なのは、各国・各地域がロックダウン戦略を決定するにあたっては、互いにその経済的な相互作用を考慮し、政策協調する必要があるということだ。今後、再びロックダウンをすることになった場合には、政策担当者にはぜひこの点について配慮いただきたい。

図1:緊急事態宣言発令対象都府県(2020年4月7日指定)
図1:緊急事態宣言発令対象都府県(2020年4月7日指定)
図2:緊急事態宣言発令による生産減少の推計値(2020年4月12日)
図2:緊急事態宣言発令による生産減少の推計値(2020年4月12日)