ノンテクニカルサマリー

新型コロナの影響と政策対応への認識:個人サーベイに基づく観察

執筆者 森川 正之 (所長・CRO)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.データ

本研究は、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)の脅威やこれまでの政策対応についての国民の見方を、オリジナルな個人サーベイに基づいて概観する。調査実施時期は2020年6月下旬、回答者数は5,000人強である。

2.新型コロナの脅威・終息時期の予想

今後1年以内に自分自身が新型コロナに感染する、重症化する主観的確率を集計した結果が図1である。全回答者の平均値は21.3%で、年齢別に見ると高齢層は感染リスクをやや小さく評価する傾向がある。若い人ほど活動水準が高く他人との接触機会が多いので、予想される結果と言える。感染して重症化するリスクの平均値は12.8%である。年齢別の違いは顕著でないが70歳代はやや低い。ただし、高齢層は感染自体のリスク評価が低いので、仮に感染した場合に重症化する主観的確率はいくぶん高い。

図1:新型コロナ感染・重症化の主観的リスク
図1:新型コロナ感染・重症化の主観的リスク

感染自体の主観的確率もかなり高い印象を受けるが、特に感染した場合に重症化するリスク約60%(=12.8%/21.3%)という数字は、現時点での新型コロナに関する知見に照らすと過大評価の可能性が高い。新型コロナを自身の健康への脅威ととらえる傾向が強いことは、「三密」回避などの自発的な社会的離隔行動につながっている可能性がある。

新型コロナの終息時期の予想を集計した結果が図2である。新型コロナの終息時期は、ワクチンの開発や集団免疫の達成などに依存しており、専門家にとっても不確実性が高いので、回答のばらつきは大きい。中央値は「2022年前半」であり、終息まで2年程度ないしそれ以上を要すると予想している人が多い。なお、新型コロナ終息時期の予想と東京オリンピック・パラリンピック開催の見通しの間にはシステマティックな関係が見られる。

図2:新型コロナ終息時期の予想
図2:新型コロナ終息時期の予想

3.社会的離隔措置への評価と消費への影響

「緊急事態宣言」や営業自粛、不要不急の外出自粛措置への評価は、「適当だった」が51.4%と過半を占めており、「もっと強い措置を採るべきだった」も35.8%とかなり多い。一方、「措置が強すぎた」は7.9%、「やるべきではなかった」は4.9%と少数である。前述の感染・重症化する主観的確率の高さと整合的であり、日本人は経済よりも健康への影響を重視する傾向が強いようである。

「緊急事態宣言」下での消費支出がそれ以前に比べてどう変化したかを尋ねたところ、「変わらない」73.4%、「増えた」11.0%、「減った」15.7%だった。外出自粛で減少する支出がある一方、マスク・消毒薬などへの支出、自宅での日常生活費、在宅勤務に必要な機器の購入などの増加要因もあり、結果として大きく変化していない人が多かったものと考えられる。しかし、世帯年収別にはかなり明瞭な差があり、世帯年収1,000万円を超えると増加が少なく、減少が顕著に多い。世帯年収別の平均値を集計したのが図3である。消費減少率は世帯年収1,000万円未満▲1.6%、世帯年収1,000万円以上▲4.8%であり、選択的な財・サービスの消費が大きく影響を受けたことを示唆している。

図3:緊急事態宣言下の消費支出
図3:緊急事態宣言下の消費支出

4.特別定額給付金の評価・使途

1人10万円の特別定額給付金については、「望ましい」(52.2%)が過半を占め、「どちらとも言えない」36.5%、「望ましくない」11.2%となっている。年齢別には若い世代ほど「望ましい」という回答が多い。

特別定額給付金の使途を集計した結果が図4である。回答者全体では「日常生活費」42.4%、「日常生活費以外の支出」31.5%、「貯蓄」20.3%、「寄付」1.5%、「辞退」0.6%、「その他」3.6%である。世帯年収別には、年収500万円未満で「日常生活費」が、年収1,000万円以上では「貯蓄」がやや多い。このほか、新型コロナの影響で失業した人や休業中の人は「日常生活費」という回答が顕著に多く、特別定額給付金の便益が大きいことを示唆している。

図4:特別定額給付金の使途
図4:特別定額給付金の使途