執筆者 | 越智 小枝 (東京慈恵会医科大学)/関沢 洋一 (上席研究員)/宗 未来 (東京歯科大学) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
日本では、新型コロナウイルスパンデミックによる自粛により売上高が落ち込んだ観光業界を中心として需要を喚起するために、2020年7月より「Go Toトラベル」が政策として実施されたが、11月頃からの新型コロナウイルス感染の急増に伴い、このGo To事業が新型コロナウイルス感染拡大の原因であるのでは、という批判がマスコミ等で盛んに取り上げられるようになっている。しかし一方で、Go To事業が本当に新型コロナウイルス感染拡大と関連するのか否かにつき、データに基づいた検証は不十分である。
本研究は2020年10月27日~11月6日に行われたアンケート調査結果を用い、8月、9月の旅行の有無と新型コロナウイルス感染の診断との関係を調べたものである。本調査では回答者の背景を日本人全体の背景と合致するように調整した上で16,642名から有効回答を得、分析に用いた。
集計したデータによれば、8月か9月に1泊以上の旅行に行ったと回答した人々は、新型コロナウイルス感染の診断を受けたと回答する割合が高かった(表1)。また、旅行に行ったと回答した人々は、過去1カ月における新型コロナウイルス感染に関係する7つの症状(発熱、咳、のどの痛み、だるさ、息苦しさ、味覚・嗅覚の障害、下痢、以下新型コロナ関連症状と呼ぶ)のうち、咳と息苦しさを除いた症状を経験したと回答した割合が高かった(表1)。さらに統計学的に解析したところ、新型コロナウイルス感染の診断や咳を除いた新型コロナ関連症状と旅行との間に有意な相関関係が見られた(本文を参照のこと)。
ただし、本研究には種々の限界があり、結果の解釈には十分な注意を要する(詳細は本文の9~10ページを参照のこと)。1つには、本研究で用いられたデータでは旅行と新型コロナウイルス感染の前後関係を示すことはできない。また①旅行をする人は旅行以外の感染リスクが高い行動もとりやすい可能性、②旅行そのものよりも旅行先の解放感で密な環境での外食などのリスク行動をする割合が高かった可能性、なども考えられ、旅行自体が新型コロナウイルスの感染リスクを上げると早急に結論付けることはできない。
また、新型コロナウイルス関連症状は、新型コロナウイルス感染だけに特異的な症状ではない。旅行に行けば他の風邪を引いたり埃で喉を傷めたり、などによりこれらの症状を来すことは十分にあり得、この結果をもって新型コロナウイルス感染と旅行の関連をむやみに強調するべきではないだろう。
最後に、本調査はインターネット上で行われたものであり、対象者に偏りがある可能性や、不正確な回答が多数存在する可能性も否定できないことなどから、ほかの疫学的調査と組み合わせて慎重な解釈が必要であると考える。
以上の限界はあるものの、本研究は旅行と新型コロナウイルスの診断の関係を大規模データで検証した数少ない研究であり、本研究の先行研究となるMiyawakiらの研究[1] と並んで、Go To トラベルの今後のあり方を検討するに当たって参考となるデータであると考える。
診断・症状 | 診断・発症の有無 | 総人数 | 旅行していない | 旅行した | p値 | |||
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16,642 | (100%) | 13,407 | (80.6%) | 3,235 | (19.5%) | |||
新型コロナウイルス感染の診断 | 診断・受診なし | 16,527 | (99.3%) | 13,351 | (99.6%) | 3,176 | (98.2%) | <0.001 |
あり(治療中) | 53 | (0.3%) | 16 | (0.1%) | 37 | (1.1%) | ||
あり(治癒した) | 62 | (0.4%) | 40 | (0.3%) | 22 | (0.7%) | ||
発熱 | なし | 16,345 | (98.2%) | 13,195 | (98.4%) | 3,150 | (97.4%) | <0.001 |
あり | 297 | (1.8%) | 212 | (1.6%) | 85 | (2.6%) | ||
せき | なし | 16,293 | (97.9%) | 13,131 | (97.9%) | 3,162 | (97.7%) | 0.481 |
あり | 349 | (2.1%) | 276 | (2.1%) | 73 | (2.3%) | ||
のどの痛み | なし | 15,159 | (91.1%) | 12,273 | (91.5%) | 2,886 | (89.2%) | <0.001 |
あり | 1,483 | (8.9%) | 1,134 | (8.5%) | 349 | (10.8%) | ||
だるさ | なし | 15,840 | (95.2%) | 12,788 | (95.4%) | 3,052 | (94.3%) | 0.013 |
あり | 802 | (4.8%) | 619 | (4.6%) | 183 | (5.7%) | ||
息苦しさ | なし | 16,210 | (97.4%) | 13,072 | (97.5%) | 3,138 | (97.0%) | 0.109 |
あり | 432 | (2.6%) | 335 | (2.5%) | 97 | (3.0%) | ||
味覚・嗅覚の障害 | なし | 16,521 | (99.3%) | 13,328 | (99.4%) | 3,193 | (98.7%) | <0.001 |
あり | 121 | (0.7%) | 79 | (0.6%) | 42 | (1.3%) | ||
下痢 | なし | 14,082 | (84.6%) | 11,393 | (85.0%) | 2,689 | (83.1%) | 0.009 |
あり | 2,560 | (15.4%) | 2,014 | (15.0%) | 546 | (16.9%) | ||
(注)旅行は2020年8月か9月について尋ねたもの。新型コロナウイルスの診断は時期の限定はない。それ以外は過去1カ月(10月27日から11月6日に回答)の経験を尋ねた。p値はカイ二乗検定で算出した。 |
- 引用文献
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- Miyawaki, A., et al., Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of COVID-19 Infection. medRxiv, 2020: p. 2020.12.03.20243352.