ノンテクニカルサマリー

新型コロナと在宅勤務の生産性:企業サーベイに基づく概観

執筆者 森川 正之 (所長・CRO)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.背景

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、特に「緊急事態宣言」の前後から在宅勤務が急速に拡大した。新型コロナ終息後も在宅勤務が新しい働き方として定着するかどうかは、在宅勤務の生産性に強く依存する。個人を対象としたサーベイに基づいて在宅勤務の生産性を分析した結果によれば、新型コロナ下での在宅勤務の生産性には個人差が大きいが、平均的には職場に比べて30~40%低かった(森川 2020)。本稿は、企業に対するサーベイに基づき、新型コロナ下での在宅勤務の実態を、在宅勤務の生産性に焦点を当てて概観する。

2.在宅勤務の実施状況

新型コロナ下で在宅勤務を実施した企業は回答企業の約半数にのぼるが、その大部分は新型コロナを契機に導入した企業である。情報通信業の企業、東京都に立地する企業、大卒以上の従業者のシェアが高い企業、平均賃金が高い企業ほど在宅勤務の実施確率が高い。

在宅勤務集約度―総労働投入量に占める在宅勤務の寄与度―は、在宅勤務実施企業の単純平均で23.3%、在宅勤務を実施しなかった企業を含め、従業者数で加重平均した数字は12.6%である。情報通信業及びサービス業の企業、東京都に立地する企業、従業員の女性比率及び大卒以上比率が高い企業、平均賃金の高い企業は在宅勤務集約度が高く、非正規労働者比率が高い企業は在宅勤務集約度が低い傾向にある。

3.在宅勤務の生産性

在宅勤務者の生産性(職場の生産性=100)についての企業の評価は、単純平均で68.3である。個人サーベイに基づく在宅勤務の主観的生産性(60.6)よりも若干高い(図1参照)。在宅勤務集約度と在宅勤務の生産性に基づいて在宅勤務の生産寄与度を概算すると、在宅勤務実施企業の平均値は17.2%、在宅勤務を行っていない企業を含めて、従業者数で加重平均した数字は9.4%である。

新型コロナ前から在宅勤務を採用していた企業の場合、在宅勤務の生産性は81.8であり、職場に比べると低くなるものの、新型コロナ後に在宅勤務を導入した企業(67.0)に比べると大幅に高い(図2参照)。これは、個人サーベイの結果と同様のパターンである。情報通信業の企業、東京都に立地する企業、女性比率の高い企業、平均賃金の高い企業において在宅勤務の生産性が相対的に高い。

在宅勤務の制約・障害、生産性に影響を与える要因としては、自宅ではできない仕事があること、自宅はパソコン・通信回線などの設備が十分整備されていないこと、法令や社内ルール上の制約、フェイス・トゥ・フェイスでの緊密な情報交換が難しいことを挙げた企業が多い。制約となった具体的な規制としては、労働規制、消費者保護・個人情報保護規制を挙げた企業が多い。

図1:在宅勤務の生産性分布:雇用者/使用者
図1:在宅勤務の生産性分布:雇用者/使用者
(注)職場の生産性=100としたときの在宅勤務の生産性。雇用者の在宅勤務の生産性については森川 (2020)参照。
図2:在宅勤務の生産性分布:採用時期による違い
図2:在宅勤務の生産性分布:採用時期による違い
(注)Early WFH adoptersは新型コロナ前から在宅勤務を採用していた企業、New WFH adoptersは新型コロナ後に在宅勤務を導入した企業。

4.含意

在宅勤務の実施状況、在宅勤務の生産性に関する以上の観察事実は、就労者を対象としたサーベイの結果と総じて整合的である。新型コロナ下で注目されている在宅勤務だが、その生産性は平均的には職場勤務に比べて約32%低く、在宅勤務の集計的な生産寄与度はピーク時でも10%前後である。しかし、新型コロナ終息後も在宅勤務を活用しようとする企業が約半数にのぼっており、情報通信インフラの整備、規制やルールの見直しが課題となる。

ただし、在宅勤務制度を採用している企業であっても、必ずしも全従業者が行っているわけではなく、完全在宅勤務というケースは少ない。在宅勤務に適した職種・業務に従事する職員に適用すること、対面のコミュニケーションと遠隔会議システム等の新たなコミュニケーション手段の長所・短所を踏まえて、職場と在宅の勤務を適切に使い分けることがおそらく重要である。

参照文献