ノンテクニカルサマリー

日本卸電力取引所の前日価格の低下要因に関する分析:再生エネルギー普及とコロナ禍による需要減少を中心として

執筆者 池田 真介 (小樽商科大学)
研究プロジェクト 2020年後における電力市場設計の課題
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「2020年後における電力市場設計の課題」プロジェクト

本論文では、2015年3月30日から2020年7月9日にかけて日本卸電力取引所(以下JEPXと称す)で取引された電力の前日スポット価格(システムプライス)、総取引量(均衡約定量)、買い入札量および売り入札量を分析し、今後のJEPXの効率性や厚生を把握する上で重要な2つの発見をした。

第一の発見は、2018年第4四半期(Q4:18と称す)より開始した間接オークション、すなわち連系線利用の権利者がJEPX取引に付随する地域間融通で間接的に決まるような制度変更によって、JEPXの様相が一変したことである。以下の図の各点は、総取引量(青)、売り入札量(赤)、買い入札量(オレンジ)の日内24時間48半時間帯に関する中央値であり、同じ色の濃い曲線は平日の、薄い点線は週末祝日のトレンドをHPフィルターで抽出したものである。Q4:18からすべての曲線が強く周期しながら連動していることが分かる。また、コロナ禍に対応したQ2:20では買い入札量が大きく落ち込むが、売り入札量は周期しながらの上昇トレンドに乗り続けており、結果として均衡取引量の落ち込みが需要ショックからきていることを示している。

このような売り買い取引量の強い連動性は、需給曲線の一方だけを動かす要因を利用して他方を両者の交点のデータから推定しようとする操作変数法の適用を難しくする。しかし、本論文の第二の貢献は、交点以外のもう一点の情報が得られれば、需給曲線の識別が可能となる点を示したことである。JEPXは、四半期ごとの市場監視報告書を公表しているが、その中に、均衡約定量を10%増加させた際の売り手価格と買い手価格の四半期平均が記載されている。また、取引量(約定量)の四半期平均は容易に計算できる。このため、我々は四半期別の需給曲線それぞれに乗っている2点が利用可能であり、対数線形の逆需要・供給曲線を仮定すればそれぞれの逆算は容易である。このようにして得られた各四半期別の需要曲線(青)と供給曲線(赤)が以下の図で示されている。

これらの図は、需給曲線を綺麗に識別できていることを示唆する。これにより、四半期別の比較静学や余剰分析を行うことができる。また、逆算された需給曲線の端点から、いくつかの重要な政策的含意を読み取ることができる。例えば青の需給曲線の左上端点(単位価格999円に対応、図内レジェンド青線に付随する初めの数字)は、旧一電が市場に流した電力を高値買い戻しする規模や頻度を要約しており、JEPX利用が深化するにつれその値が上昇していること、また夏(Q3)や冬(Q1)に上昇していること、などが読み取れる。また供給曲線の左下端点(単位価格0.01円に対応、図内レジェンド赤ダイヤモンドに付随した数字)は、量をコントロールできないため限界費用がゼロとみなされる再生可能エネルギーの最低価格での入札の量や頻度を要約しており、コロナ禍のQ2:20でも売り入札量が伸びていることを示している。このように、高い精度で需給曲線を識別することで、電力市場政策やマクロ経済政策の評価が可能となる。