ノンテクニカルサマリー

医療における人工知能の受容性

執筆者 岩田 和之 (松山大学)/森田 玉雪 (山梨県立大学)/鶴見 哲也 (南山大学)/馬奈木 俊介 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 人工知能のマクロ・ミクロ経済動態に与える影響と諸課題への対応の分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「人工知能のマクロ・ミクロ経済動態に与える影響と諸課題への対応の分析」プロジェクト

本研究では、①医療サービスに対して、人々がどのような要素を重視しているか、②余命を宣告される場合に、人々は医師と人工知能ロボットにどのような期待を抱いているか、の2点を分析した。分析には独立行政法人経済産業研究所が2019年2月から3月にかけて実施した「医療における人工知能についてのインターネット調査」を用いた。調査はリサーチ会社に委託実施し、15,001人から回答を得ることができた。

調査結果を分析したところ、①表に示すように、人々は医療サービスを構成する要素のうち、診断の信頼性を最も重視しており、次いで医師との2種類の対話を重視していることが示された。ただし、対話については人々の属性によって多様な評価結果が示された。女性と高齢者は後半の対話(診断・治療)を重視する一方で、若者は前半の対話(問診、診察、検査)を重視している。

この結果からは、医療AIが医師の業務を代替する場合、女性や高齢者が多い医療機関では、相対的に医師との対話の重要度が低い問診等で医療AIを導入し、一方で、若者の患者が多い医療機関では、診断・治療で医療AIを導入していくことが望ましいと考えられる。医療AIを導入していく際には、医師の負担軽減だけでなく、需要側である患者の視点を取り入れていくことが必要であろう。

表:ベスト・ワーストスケーリングによる推定結果
項目 係数 標準誤差 順位
信頼 1.927*** 0.0096 1
対話(前) 1.008*** 0.00864 3
対話(後) 1.021*** 0.00865 2
人柄 0.743*** 0.0085 4
利便 -0.351*** 0.00857 10
設備 0.480*** 0.00841 5
予約 0.200*** 0.00838 8
清潔 0.245*** 0.00837 7
同一 0.369*** 0.00839 6
対数尤度 -326130
カイ二乗値 93262***
疑似決定係数 0.13

また、余命(「悪い知らせ」)を宣告される際に、人々は医師からの宣告を好み、人工知能ロボットに言われるなら正直に宣告されたいことも示された。ただし、②図に示すように、人工知能ロボットに余命を宣告される場合には、好まれるロボットの形態(人間型・ロボット型、ペット型・スピーカ型)は状況によって異なることも示された。「正直なAI」と「様子を見る(場合によって答えを変える)AI」の場合は、ロボット型が最も良い。「正直なAI」では人間型が、「様子を見るAI」ではペット型が嫌われている。「余命を長く言うAI」はいずれも好まれていない。

この結果からは、当初は、患者に「正直なロボット」と「人間の医師」を選択してもらい、将来、技術進歩により、AIが道徳的な判断をすることが可能となった時点で、患者の選好に応じて最適な様式のAIを担当させるのが望ましいと考えられる。

図:コンジョイント分析から推計した最低保証額
図:コンジョイント分析から推計した最低保証額