ノンテクニカルサマリー

2005年都道府県間産業連関表の作成とその概要

執筆者 新井 園枝 (経済産業研究所 計量分析・データ専門職)
研究プロジェクト 地域別・産業別データベースの拡充と分析-地域別・産業別生産性分析と地域間分業
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「地域別・産業別データベースの拡充と分析-地域別・産業別生産性分析と地域間分業」プロジェクト

地域経済に関するさまざまな問題を分析するには、地域間・産業間の取引構造も含んだ地域間産業連関表が必要となる。昭和30年表から関係省庁の協力のもと西暦の末尾0、5の年に作成されてきている国の産業連関表(以降全国表という)を利用して、経済産業省は昭和35年表から経済産業省の地域政策区域として全国を9つのエリアに分けて全国表にあわせた地域間産業連関表(以降METI地域間表という)を作成してきた(昭和45年表までは中部を東海、北陸に分けて、昭和50年表以降は沖縄を加え中部は1地域とした)。METI地域間表は高度成長期における地域の経済構造の把握だけではなく地域格差の是正、地域開発効果の測定や政策効果の分析などにも重要な役割を果たしてきた。また近年では2011年の東日本大震災では地域のサプライチェーン寸断による影響をいち早く分析できるツールとして早々に各方面で利用された。しかし、METI地域間表は地域の括りが大きいこともあり、ある一部地域の影響を見るには分析結果が大まかになってしまう。そこで、都道府県が作成している産業連関表の部門の概念の統一化を行い、また後述のとおり「本社」部門を設定し移出入を調整して、その地域を都道府県レベルまで分割した非競争移入・競争輸入型の産業連関表を作成したので、その要点を解説する。

はじめに①各都道府県の部門概念および部門内容を統一した統一部門分類を作成し、都道府県の産業連関表を調整して統一分類の産業連関表に置き換えた。本社と事業所との関係など一層行政ニーズの分析が可能となる分析ツールになることが期待できることから、企業が都道府県を跨って事業所を展開し活動している「本社サービス」の投入について一部門を設けて産業連関表に明示的に導入した。次に②品目別に輸出、移出、輸入、移入を分離し、③輸出入額がそれぞれの品目で全国表と一致するように作業を行った。また④都道府県間の交易を表す移出入額については、品目別に相手先別の移出、移入に分割し、品目別の移出相手先の都道府県の値と移入する都道府県の値が一致するように作業を行い、⑤その値を利用して都道府県別の非競争移入・競争輸入型産業連関表の作成を行った。都道府県間産業連関表を利用することで、国内の地域間・産業間の分析構造をバリュー・チェーン分析の枠組みを使って分析するなど、より地域の特徴に即した詳細な分析が可能になる。

都道府県間産業連関表を用いた分析の例として都道府県の影響力係数(注1)と感応度係数(注2)を見ると、図1のとおり産業全体に与える影響力を表す影響力係数が大きいのは沖縄県、宮城県、鳥取県、埼玉県など22県、一方、他産業から受ける影響の強さを表す感応度係数が大きいのは東京都、大阪府、愛知県などの大都市圏である。

第1図:2005年都道府県間産業連関表から見た影響力係数と感応度係数
第1図:2005年都道府県間産業連関表から見た影響力係数と感応度係数

このように、都道府県間産業連関表からは都道府県間および産業間の相互依存や波及の分析を行うことが可能となる。今後、期間を空けた複数の時点でこうした都道府県間産業連関表を作成することができれば、国内の地域間分業構造の変化についても分析できるようになることが期待される。

脚注
  1. ^ 影響力係数とは逆行列係数の各列和をそれらの合計である平均値で除したものであり、地域(産業)に最終需要を与えた場合に産業全体に与える生産波及の影響が強いかを見たもの。
  2. ^ 感応度係数とは逆行列の各行和をそれらの合計である平均値で除したものであり、それぞれ1単位の最終需要があった時にどの行部門が相対的に強い影響を受けるかを見たもの。