ノンテクニカルサマリー

ベンチマーク生産体系の把握をどう改善するか?―「売上の多様化に関する調査」に基づく主活動別副次的生産物の構成

執筆者 野村 浩二 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 生産性格差と産業競争力
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「生産性格差と産業競争力」プロジェクト

一国経済における生産体系の全体把握は、GDP統計の測定精度において決定的に重要な役割を担う。しかし、事業所レベルで副業として行われる生産は、(GDP統計の基盤となる)ベンチマーク推計値(産業連関表供給表)においても部分的に欠落している懸念がある。従来の「経済センサス-活動調査」では、副次的な生産物の売上額の把握を大分類(22分類)に限られており、詳細な生産物分類へと接近できない。加工統計としてのベンチマーク供給表の現行推計プロセスからみれば、そのことが生産額自体の欠落を生じさせている懸念は大きい。

RIETIの「生産性格差と産業競争力プロジェクト」では、産業競争力評価のための基礎研究として、2017年を対象とするサンプル調査として「売上の多様化に関する調査」(Survey on Diversification of Sales: SDS)を設計し、その本調査を2018年11月から2019年1月にかけて、また追加的なWeb調査を2019年3月から9月にかけて実施してきた。それは、事業所レベルで定義される副業生産構造として主活動(JSIC小分類のネットワーク型産業を除く395分類)と副次的生産物(SDS生産物900分類)の関係性としての詳細なパターンを見出すことを目的としたものである。その把握によって、現在のGDP統計において欠落している可能性の高い副業生産額を抽出することができる。

図では、生産物ごとに、それを副次的生産物として生産する産業が存在する比率を算定し、横軸に2015年における現行供給表(以下、現行表)での把握と、縦軸にはSDS調査結果をもとに本稿で推計された副業表(以下、改訂表)での把握を比較している。大きく3つのブロックへと分離しよう。

左上の長方形で囲んだ第一ブロックは小売、卸売、建築など、現行表では副次的生産物として生産する産業数がわずかであるのに、改訂表では広範な産業に分布しているような生産物群である。現行表では、原則として、こうした生産物は主生産物として生産する産業へと(建設物であればすべて建設業へと)加算されている。45度線の左上に棒状に展開される第三ブロックは製造品を主としており、現行表と改訂表との乖離がほぼ10–30%ほどの範囲内にある。ここで乖離が一定規模に収まることは、「経済センサス」によって副次的生産物の生産がある程度把握されていることを示すものであるが、製造業以外を主活動とする産業によって副業として生産される製造品(45度線からの乖離分)は現行表から基本的に欠落していると考えられる。その上の三角形の計上となる第二ブロックは、現行表ではおおむね10–20%ほどの産業において副業生産が計上されているが、改訂表では60%を超えるような産業で副業が行われている。第一ブロックと同様に、主生産物の生産に加算計上されるものもあるが、広範な産業がおこなう副業生産が部分的に欠落している可能性は大きい。

本稿の結論として、2つの知見が得られた。第一に、日本経済の生産として欠落していると評価される副業生産額は2015年に14.9兆円に上ると試算される。それはGDPに換算して7.7兆円(一国GDPの1.4%の水準)である。第二に、「経済センサス-活動調査」において小分類など詳細な主活動別に調査票が設計されることは、特定の生産物の投入調査を可能にするのみではなく、副業生産額の把握を改善させるためにもその価値が大きいことである。本稿での推計値に基づくシミュレーションによれば、小分類(395分類)毎に調査票を設計し、副次的生産物を10までプレプリントすることできれば、81%の副業生産額を把握することができると評価される。

企業は、余剰資産や人材があれば新たな事業も開始し、生産構造はダイナミックに変化していく。経済現象に対する真に有効なEBPM(エビデンスに基づく政策立案)のためには、利用可能な部分データに基づく分析のみではなく、問題発見的な観察と分析とを通じて、経済社会における加工統計を体系的に再構築していく不断の努力が求められる。

図:副業生産構造の比較(現行表と改訂表)
図:副業生産構造の比較(現行表と改訂表)
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注:生産物ごとの副次的生産物として生産する産業の存在する比率によって評価。